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日本ハム・万波中正がホームラン王を逃した2023年の最後に

文春野球コラム ペナントレース2023

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「今季は絶対、マンチュウがブレークする」

 今シーズン、文春ファイターズは万波中正の記事を1本見送った。まぁ、ボツになった。その回はあわてて僕が別の原稿を用意した。今年は執筆予定者のドタキャンが重なった年で、その分、僕の登板が増えているのだが、万波の記事はその最初だった。ボツになった記事の骨子はこうだった。「マンチュウは侍ジャパンのサポートメンバーとして、3月初旬の中日戦に参加した。そのときつかんだものがある。今季は絶対、マンチュウがブレークする」。

 万波がブレークすることに関しては僕にも異論はなかった。エスコンだけ1日早かった2023シーズン開幕戦では楽天・田中将大に子ども扱いされ、スライダーでクルクル回されていたが、今年のスター候補だ。ブレークしてくれなきゃ困る。僕は「場数を踏んで、成長するシーズン」になるといいなぁというイメージだった。なので、「侍ジャパンのサポートメンバーとしてつかんだもの」のくだりはちょっと弱いんではないかと指摘した。

 記事は難しい。「マンチュウは絶対ブレークする」という直感があるとする。それをただ書けばいいというものじゃないのだ。「侍ジャパンのサポートメンバー」、新聞の編み出した言葉で「ネクストサムライ」は素晴らしい経験だったろう。ホームランを打ってベンチのダルビッシュ有と大谷翔平に迎えられるなんてベースボールドリームだ。だけど、それがジャンピングボードになったとするには補助線が足りない。本大会であの目の眩むような経験をしてきた「本チャンのメンバー」がいる。経験の重みなら「本チャンのメンバー」ではないか。強化試合の中日戦で触れ合ったことがブレークのきっかけになることが全くあり得ないかといえば、あるのかもしれない。あるのかもしれないが、補助線が足りない。その補助線のところがスカスカだと説得力のある原稿にならない。

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気がつくと万波は押しも押されもしない「チームの顔」になっている

 結局、辞退したいと申し出があり、企画はストップしてしまった。僕は切り替えてぜんぜん別の原稿を入れた。それから万波のことを何度も考えた。「マンチュウは絶対ブレークする」。その直感は正しかった。「成長するシーズンになるといい」も大ハズレはしてなかった。外角のスライダーにバットが止まるようになったのは開幕してしばらく経ってからだ。追い込まれたら力まず、センター返しするようになった。投球の読みもグッと良くなった。ジャンピングボード、彼の飛躍点はどこだったのかなぁ。昨日、「干し郡司は法律で禁止されています」さんというXアカウントのポストがTLに回ってきて、感心したのだが、こうなってるらしい。

「ファイターズ高卒5年目スラッガー新旧比較 
2012 中田翔(23)
打率.239 24本塁打 77打点 出塁率.307 OPS.727

2023 万波中正(23)
打率.265 25本塁打 74打点 出塁率.321 OPS.788」
(「干し郡司は法律で禁止されています」さん、10月5日の投稿)


 気がつくと万波は押しも押されもしない「チームの顔」になっている。「顔」という連想で、もう一度、浅村のホームランを見やった彼の明るい顔を思い出した。そして、突き上げるように悔しくて悔しくてたまらなくなった。部屋でひとりつぶやく。ちきしょう。

 あぁ、万波はホームラン王を逃がしたんだなぁ。もう、ファイターズは野球しないんだなぁ。「だいたい負けていた」けど、まだ見たいんだよ。田宮裕涼を今から100試合ぐらい出したいよ。谷内亮太の守備をもっと見せてくれよ。上沢直之と別れたくないよ。あぁ、もう、ファイターズは野球しないんだなぁ。試合ないんだなぁ。

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