残り試合を数えるのも片手の指で足りようかという9月末となって尚、まだ終わりが見えません。パ・リーグのホームラン王争いの行方です。

 前回の万波中正コラムで《浅村栄斗にホームラン数を追い越されてから1か月余り。一時はかなり差をつけられましたが最近はまたホームランが出るようになってきて、8月23日の試合で1本差に迫る20号到達となりました。》と書いたのはちょうど1か月前のこと。しかし、ホームラン王争いはもはや彼等の一騎打ちではありません。

 9月26日、前日まで25本でトップに並んでいた浅村栄斗とグレゴリー・ポランコに万波中正が追いついて、1本差で近藤健介24本。この4人はほとんど横一線に並んでいるようなものですが、ちょっと離れて20本の柳田悠岐もまだまだ圏内でしょう。5人ですよ5人。大相撲秋場所の優勝争いも混戦でしたがそれ以上です。さあ一体この決着はどうなるのか。やってはいけないことですが賭けたら盛り上がりますよね。やってはいけないんですけども。さあ張った張った、張って悪いは親父の頭!

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 と、何となく日々浮かれている私なのです。もちろん万波中正の初タイトル獲得を心から念願し応援しているのではありますが、去年の今頃、松本剛と吉田正尚の首位打者争いを観ていた時とはまるで心持ちが違うんですよね。1年前はドキドキ、ハラハラしていました。今はウキウキ、ワクワクなのです。

万波中正 ©時事通信社

2年前の盗塁王と似たような展開になってはいませんか

 この違いはどこから来るのか。去年の松本剛と違って今の万波中正は追いかける立場だというのはあるでしょう。意外とその方が観ていて気楽なものです。あと、彼が何といってもまだまだ若い、成長途上の選手であるというのも大きいですよね。去年29歳の松本剛が骨折で長期離脱もありながら.350近い打率を保っていたのには、「今タイトル獲れなかったら翌年以降にまたチャンスがあるかどうかは判らない」という緊張感が絶えずつきまとっていました。でも万波中正の場合はそもそも今年の結果がどうであれ、ホームランは来年も再来年もその次も、30本40本と打てるようになることを期待され求められているんですよね。

 そして何といってもホームランは数が減らない。首位打者争いはシーズンも終盤になると、数字を伸ばすことの期待よりも落とすことの心配の方が大きくなったりして、それでどうしてもハラハラしてしまうのですが、ホームラン王や打点王や最多安打のレースにはそれはありません。この差は精神衛生上ほんと大きいですよ。

 という訳で、マンチュウ君がんばれよーとは思いつつも必死に応援するというよりは楽しく呑気に眺めていたせいでしょうか。9月半ば辺りになって、ふとこんなことを思ったのでした。

 これ、皆でホームラン王になったら面白いんじゃないかな?

 まだほんの2年前のことですし、文春野球をお読みの諸兄諸姉には記憶に新しいところでありましょう。2021年のパ・リーグは、源田壮亮と和田康士朗と荻野貴司と西川遥輝が24盗塁で並び、4人の盗塁王が誕生しました。この人数も史上初めてなら30盗塁未満というのも初めてで、低調なタイトル争いだったと言われながらも「記録ずくめ」というのはやはりそれなりに盛り上がるものです。荻野貴司と西川遥輝がシーズン最終戦で1盗塁ずつ決めて、それで4人が並んだんですよね。その瞬間に「よし!」と思ったのは、ファイターズからタイトルホルダーが出たからというだけではありませんでした。2人より3人、3人より4人の方が、絶対に面白いじゃありませんか。

 というところで今年のホームラン王争いに目をやると、未だ誰も30本に届かず、誰も抜け出すことのないまま、4人が僅差でひしめき合っている訳です。2年前の盗塁王と似たような展開になってはいませんか。だったら今度も、皆でタイトル獲得というのもあり得るんじゃないかしら。