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取引先のセクハラでうつに…「労災も労働相談も対象外」フリーランスという自由を得たらすべて自己責任なのか

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genre : ビジネス, 働き方, 社会

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「雇用者の半額」という格差に疑問の声も上がったが、こうして登場した支援金は、小学生の子どもを抱えるチナツには貴重な命綱に思えた。第一次緊急事態宣言が出た2020年4月から5月にかけ、チナツが関わるはずだったプロジェクトは感染防止のため立ち消えになり、以後、収入が途絶える期間が増えて貯蓄を取り崩す日々が続いたからだ。

必要書類がフリーランスの実態に合わないものばかり

だが、この時点では申請せずに終わった。まず、「業務委託契約等の締結日は学校休業等の開始日よりも前の日でなくてはいけない」とされたルールが壁になった。

口約束が多い業界で、契約書を交わさない仕事も多い。1カ月や2週間程度の助っ人的な業務応援もあるが、こうした依頼は、休校の最中に急に来ることも多く、子どもの休校で断わらざるを得ない。「休校前の契約」という条件には合わないと思った。

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第2波以降は仕事が戻り始めたものの、2022年の第6波ではそれまでにない急激な感染拡大が始まり、感染者は初めて10万人を突破した。子どもの感染の急増に、チナツもついに、この制度を利用しようと決意した。だが、先述のように、書類を差し戻されたばかりか、「業務遂行予定日がわかるシフト表」や「三カ月分の報酬の明細」「発注者が業務の取りやめを承諾したことが確認できる書類」が追加請求された。

フリーランスは取引先の電話1本で拘束期間が決まる働き方が多い。「シフト表」などは見たことがなかった。「三カ月分」と言われても、報酬はプロジェクト単位で一括払いの場合もあり、入金が毎月あるとは限らない。売り上げ台帳なら出せるが、これも要件に合わないと突き返されるかもしれない。業務取りやめも電話1本の通告が多く、仕事を発注してもらう立場である関係から取引先に面倒な書類を要求することは気が引けた。

フリーランスという自由を選んだら無保障は我慢すべき?

役に立ったのは、複雑な書類なしで個人事業者に対し上限100万円まで支給された持続化給付金だった。だが、これは不定期で次にいつ来るかわからず、長引くコロナ減収を支え切れない。「母親支援にはほど遠い。フリーは自力で踏ん張るしかないのか」とチナツは言う。

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