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ジャニー氏の痕跡を、この世から一切なくせば解決するのか? “戦後最悪”の性加害事件を風化させない“たった1つの方法”

2023/10/17
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ジャニーズ事務所もまた「上が白と言えば、黒でも白」だった

 その答えは、田中の元秘書の早坂茂三が与えてくれる。総理になる前から20年以上仕え、裏も表も知り尽くした男だ。そして、早坂は、著書で派閥を、「車座」と表現していた。

「日本は大中小無数のボスを中心にした車座社会の集合体である。メンバーは尻を外に向け、顔はボスに向けて、重層的な同心円を描いて暮らしてきた。優れたボスはメンバー全員の実態を掌握している。ボスは死線を超え、修羅場を何十回も潜り抜けてきた。経験と知恵の化身である。日本列島は、どこもかしこも合意と協調を神棚に祀り、集団行動を基本とする一致団結箱弁当の総本家だ。ボスはムラ社会で事を決めるとき、全員の意見に耳を傾けるが、最終決定は自分の責任で下す。『ふくれっ面をせず、全員、持ち場につけ。悪いようにはしない。信賞必罰。手柄を立てた者には恩賞を与える。サボる奴は叩き出す』。有能な指導者は、脇が甘くて、懐が深い。カネと女に目がなくても、いざというときは頼りになる。だから、皆が従った」(「オヤジの知恵」)

 そして、田中派幹部の金丸信が、ある時、笑って、こうこぼしたという。

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「親父が白だと言えば、黒でも白だもなあ。これが派閥だ」

 これには、賛否両論あるだろう。思わず、眉をひそめる人もいるかもしれない。だが、早坂によると、それは政界に限らない。エリートも庶民も、業種を超え、日本全国、至る所にあるという。

「自民党だけでなく、東大法学部教授会、仙台商工会議所、熊本県農協、全電通労働組合、木曾谷の森林組合、外務省幹部会、みな同じである。義理と因縁、情実と不公正が錯綜する日本の現実にあって、ボスの仕切る車座社会の利益配分が有効に機能してきた」(同書)

 こうして見ると、ジャニーズ事務所もまた、見事な車座社会だった。

 タレントも社員も、尻を外に向け、顔はボスを向いている。上が白と言えば、黒でも白だ。これが、強固な絆を生み、日本でトップのエンターテインメント企業にした。そして、性加害も見て見ぬふりをする、“得体の知れない空気”を生んだのだった。

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