文春オンライン

2024年の論点

「皇后の月経に重ならないよう注意」昭和天皇の「母」と「妻」に対する認識の落差があまりにも大きかった理由

「皇后の月経に重ならないよう注意」昭和天皇の「母」と「妻」に対する認識の落差があまりにも大きかった理由

2024/01/02

source : ノンフィクション出版

genre : ニュース, 皇室

note

 天皇はこう言っているのだ。米軍が大宮御所や沼津御用邸を標的としたのは、戦争の継続にこだわっていた皇太后を狙い撃ちにすることで天皇を安心させ、戦争を終わらせるためだったという風説があった。これを単なる風説とすべきかと言えば、そうでもない。あながち間違っていないからだ。

 重大な発言である。拙著『昭和天皇』や『皇后考』などで指摘したように、戦勝を祈り続ける皇太后と天皇との間に確執があったことは確かだ。ここでは天皇が、そうした皇太后の姿勢を米軍も察知していたととらえている。

昭和天皇とダグラス・マッカーサー(左)

注目すべき「神罰」という言葉

 しかし天皇自身も42年12月に伊勢神宮に参拝して戦勝を祈願し、45年になってもなお「一撃講和論」に固執し続けたように、皇太后の影響を受けていないとは言えなかった。それを思わせるのが、50年9月18日の次の発言である。

ADVERTISEMENT

「神道に副(そ)はぬ事をした為に神風は吹かず、敗戦の神罰を受けたので皇太神宮に対する崇敬の念を深くした」

「皇太神宮」は皇大神宮、すなわちアマテラス(天照大御神)をまつる伊勢神宮内宮を指す。「神道に副はぬ事をした」は42年12月の戦勝祈願を意味する。天皇は「平和の神」であるはずのアマテラスに戦勝を祈ったことを反省しているのだが、注目すべきは「神罰」という言葉が使われていることだ。

昭和天皇

 この言葉はもともと皇太后が使っていた。枢密院議長だった倉富勇三郎の日記には、皇太后が天皇に「形式的ノ敬神ニテハ不可ナリ。真実神ヲ敬セザレバ必ズ神罰アルベシ」と警告した言葉が収められている。「敬神」の念が強かった皇太后が、天皇の態度に満足していなかったということだ。

 しかしここでは、天皇自身が敗戦の原因をアマテラスによる「神罰」に求めているのである。皇太后に感化されて心から神に祈るようになった結果、皇太后の思考そのものが天皇に乗り移ったように見えなくもない。