終戦から78年目の夏。当時成人を迎えていた人はいまや98歳。5歳だった子どもですら、すでに83歳を迎えるほどの歳月が経った。日本人男性/女性の平均寿命が81.64歳/87.74歳であることを照らし合わせると、「あと数年で戦争体験者がいなくなる」というのは決して大げさな話ではない。
戦争の記憶を風化させず、その惨禍を語り継ぐ重要性が増すなか、各世代から好評を博している一冊がある。戦前~戦後の貴重な白黒写真355枚を、AI技術と人の手によりカラー化し、まとめた『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』(光文社)だ。
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「僕自身は2016年から古写真をカラー化する活動を始めていたんですが、書籍化につながるきっかけとしては、2017年に広島女学院高校で行った写真のカラー化についての講演でした。たまたま当時学生だった庭田杏珠さん(『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』共著者)が、その講演を聞いてくれていたんです」(著者の渡邉英徳さん)
「当時の写真をカラー化してプレゼントしたい」
「平和活動に積極的に取り組んでいた庭田さんは、講演の少し前の時期、戦時下の写真をたくさん所持されている濵井德三さん(2023年没)とお会いしていたそうで、講演からしばらくして実際にカラー化した写真をプレゼントしたんです。そして、その写真を見ながら濵井さんと対話をしていると、どんどん当時の記憶を蘇らせていたんですよ」(同前)
まるで氷が溶けるように、かつての記憶が取り戻されていく――。モノクロの写真をカラー化する意義を目の当たりにし、渡邉さんと庭田さんによる「記憶の解凍」プロジェクトが始動した。そこから、Twitterにアップしたカラー化写真が編集者の目に留まり、書籍化が決定。刊行されるまでにかかった年数はプロジェクト始動からわずか1年ほどだ。
しかし、実際のカラー化作業にあたってはさまざまな困難があったという。