一筋縄ではいかないAIとのカラー化作業
「戦地の写真はアメリカの公文書館にパブリックドメインの写真がたくさんあって、自由に活用できるので、使用する写真を集めること自体は困難ではありません。ただ、AIでカラー化する作業を終えた時点では、結構な確率で色が間違っているんですよね。
だからこそ、残されている資料はもちろん、当時のことをよく覚えてらっしゃる方の記憶、専門家の方のアドバイスなどから、色を修正していく必要があるんです。AIには歴史的な知識がないので、人が対話をしながら、当時の出来事に迫っていくというプロセスがとても重要でした。
また、一度カラー化したら写真が完成するというわけでもありません。写真を見た方から『この色が違う』などと、新たな指摘があったりするので、当時を経験している方が存命している限り、永遠にアップデートが終わらないものだと思っています。書籍(2020年刊行)に掲載した写真でも、現時点で別の媒体にアップする際には、さらに補正を加えているものもあるんですよ」(渡邉さん)
そう語る渡邉さんはSNSでの情報発信に積極的な研究者としても知られている。ウクライナ危機では、ロシア軍による侵攻が始まった直後の2月25日から、3D加工技術と衛星画像を活用して、ほとんどリアルタイムのデジタル地図を更新。ウクライナの現状を世界に伝え続けた。そして、第二次世界大戦に関しても定期的にツイートを行っている。
「実は、第二次世界大戦に関する写真は、毎年同じ日に、同じ写真をTwitterにアップしているんです。それでも毎年変わらず大きな反響があるんですよ。時間が経つと、どうしても記憶が薄れてしまうからだと思うのですが、僕自身のツイートが1年に1回過去の記憶を呼び覚ますタイミングになっているとしたら嬉しいですね。定期的に発信し続ける意義を改めて気づかせてくれます」(同前)
現在は、専門家とやり取りしながら、関東大震災時の写真のカラー化に取り組んでいるという渡邉さん。その成果は、国立科学博物館で2023年9月1日から開催される「震災からのあゆみ―未来へつなげる科学技術―」で展示されることが決まっている。
INFORMATION
東京大学基金では、これまでの災害、そして来たるべき災害の記憶を保存・記録していく仕組みづくりのために「戦災・災害のデジタルアーカイブ基金」を運営しています。プロジェクトへの支援はこちらから。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。次のページでぜひご覧ください。