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長いスランプのなかで『革命前夜』を書き出した時に「あ、これはいけるかも」と――須賀しのぶ(2)

話題の作家に瀧井朝世さんが90分間みっちりインタビュー 「作家と90分」

2015/08/16

genre : エンタメ, 読書

note

読者からの質問「締切間際の修羅場中の食事はどうされていますか?」

 

●コバルト時代からの須賀先生の大ファンです。今後、「キル・ゾーン」や「流血女神伝」シリーズレベルの長篇を執筆する予定はありますか?(30代女性)

須賀 ないんです。私が書きたくても、もうそういうレーベルがないので、状況的に難しいですね。長篇を書いたとしても「芙蓉千里」の長さが限界ではないでしょうか。それに実は最近、一話完結の短篇が楽しくて……。

●「流血女神伝」シリーズの続きはないのでしょうか。いつまでも待っています!(20代女性)

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須賀 先の質問の回答と同じで、そういうものを受け入れていただけるレーベルが今はないので難しいですね。大御所の先生だったらどこでも書かせてもらえると思うので、何かの間違いで私が売れたら、もしかしたら(笑)。

●ベタで恐縮ですが、映像化するなら登場人物はどの役者さんたちに演じてほしいですか?(40代女性)

須賀 私、書いている時って人物が全員「へのへのもへじ」なので、映像に関しては分からないですね。容姿を描写しても書いたそばから忘れます。よく登場人物について「モデルは?」と訊かれるのでライトノベル時代は強引にそれっぽい人を探して言ったりもしていたんですけれど、実はモデルも一切いません。お好きなように考えていただけるといちばん嬉しいです。

●ドイツや日本などの近現代中心の作品を発表されていますが、日本史世界史問わず、他に好きな(興味のある)、舞台にしてみたい時代、国はありますか?(30代女性)

須賀 ドイツと日本以外ということなら、ロシアです。赤軍時代のソ連ですね。でも難しそうですよね(笑)。でも、だんだんヨーロッパを書く時の舞台が東に移っているんで、そのうち行きつくかもしれません。

●須賀先生は締切間際の修羅場中の食事はどうされていますか? こんなものをよく食べる・食べない、など教えていただけたら嬉しいです。(30代女性)

須賀 締め切り間際はカレー率が高くなります。作り置きしておくので。でも、最終的に締切の2日とか3日前からは食べられなくなります。たとえブトウ糖でも固形物が一切受け付けられなくなるので、そうなるとポカリスエットだけです。だからヒューッと痩せて、書き上げるとヒューッと元に戻ります(笑)。今は戻りすぎます……。でも、単行本の『神の棘』の時は食べられない状態が半月以上続いてしまったので、廃人のようになっていました。

●須賀さんは少女小説からのデビューでしたが、少女小説と一般文芸において一番違うと思うところは何ですか。(30代女性)

須賀 うーん。さきほどもお話ししましたが、視点の置き方でしょうか。同じ目線なんですけれど、視点の切り替え方が違うんです。俯瞰で見る時と、平面で観る時の切り替え方が、一般文芸のほうがすごく技術を要求されるなと私は思いました。

 私もまだ、うまく説明できないんですけれど、ライトノベルは限りなく一人称に近い三人称なんです。それで共感をおぼえてもらえるようにしておきながら、次にその世界を俯瞰するような描写に持っていく時、その間にサービスシーンを入れたりしたんです。でも一般文芸だと、そういう接着剤がない。だから構成そのものを変えなきゃならないんですね。それが私には難しかったです。

●『ザ・スニーカー』に掲載された「鷲と鷹」は書籍化されないのでしょうか。こちらは未読なのでぜひとも読みたいのですが。(30代女性)

須賀 うわあ、懐かしい(笑)。これは第二次大戦のドイツ空軍の話でしたね。私ももう原稿を持っていないので、書籍化の予定はないですね、すみません。

 エーリヒ・ハルトマンとヴァルター・クルピンスキーという、二人のエースパイロットの話だったんですよね。『ザ・スニーカー』って一応男の子向けの雑誌だったんですが、なぜかその時に「少女のためのミリタリー入門」という特集をやって、私に声がかかったんです。他にも寄稿した女性作家がいたんですが、なんか私一人がガチすぎて浮いてました。女子向けなら陸や海より若いパイロットがいいかなと思って楽しく書いたんですが、空戦シーンは1回でよかっただろ……と大後悔しました……。

●埼玉のご出身なのに、なぜ楽天のファンなんですか?(40代女性)

 

須賀 埼玉の楽天ファン、実は多いんですよ(笑)。東北は両親の出身地でゆかりがあるので応援したかったことと、好きな選手が入ってきたので。それと、見ていて思ったんですけれど、ノリが高校野球に似ていたんですよ。寄せ集めのボロボロの弱いチームが、名将が来て、奇策とかを用いながら強くなっていって、田中将大君という大スターが来たりして、最終的に優勝するという。漫画みたいなところがいっぱいありますよね。

 プロ野球と高校野球、どちらも好きです。昔は県予選の時期はだいたい朝からずっと高校野球を見に行って、夜はプロ野球を見に行って、帰ってきて仕事をしていたら倒れちゃって、よく怒られました。最近は高校野球の時期はもう、プロ野球はテレビで見ることにしています。今、県大会の時期ですが、今日も球場寄ってから来ました(笑)。

●『革命前夜』の最後、ベルリンの壁の崩壊を眞山に伝えた女性が「あなたの部屋のアンテナでは見えないので私の部屋に来なさい」と言っているのは、ドレスデンでも西側の放送が見られるアンテナを持っている人がいたということでしょうか。眞山に対してデモや亡命を批判的に言っていた彼女でも西側からの情報を得ていたということは、国内改革を求める気持ちを持っていたということでしょうか?(30代女性)

須賀 アンテナについては、そうです、まさに。実は彼女もこっそりとアンテナを持っていたというオチです。客人がいる時は隠して「私は東の模範市民よ」という顔をしておいて、やっぱり西の情報は気になっていたという。嬉しいです。そこに気づいてくれる人っているかな、と思っていたんです。

 作中にもちょっとだけ描写ありますが、電波が入らないドレスデンも壁崩壊のちょっと前に、市民が西側の放送を受信できるアンテナを開発したんですよね。それで結構、こっそりつけていたらしいんです。だからドレスデンは偶然に選んだ舞台でしたけれど、ここにしてよかったなと思って(笑)。

 でも、彼女は国内改革を求める気持ちまではなかったと思います。まあ、明らかにする必要もないんですけれど、実をいうと彼女はシュタージの監視員なのです。西のことは気になるけれど、西のようになりたくないという、アンビバレントな感覚が東の人にはあったと思うんですよね。彼女のような戦争を経験している世代だと、やっぱり資本主義の矛盾がナチを生んだという思いも強いでしょうから、本当に東であることに誇りを持っている人も多かったと思います。でも兄弟として西のことをそれはそれで認めてもいる。そういう彼女の心理も書きたかったんです。

長いスランプのなかで『革命前夜』を書き出した時に「あ、これはいけるかも」と――須賀しのぶ(2)

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