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100円稼ぐための経費が1万6800円…東京から1時間のローカル線「久留里線」32年間の“変化”

2024/01/19

genre : ライフ, 歴史, , 社会

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 鉄道路線の営業成績を計る指標の一つに「営業係数」がある。100円の収入を得るのにいくらの経費がかかるか、を示す数値で、100を下回れば黒字、上回れば赤字路線ということになる。国鉄末期に「日本一の赤字線」として全国に知られた北海道の美幸線(昭和60年廃止)の営業係数は、毎年3,000~4,000程度で推移していた。

 令和4(2022)年にJR東日本は、房総半島の久留里線(木更津~上総亀山間32.2km)のうち末端の久留里~上総亀山間9.6kmについて、令和元(2019)年度以降の3年間の営業係数が毎年15,000を超えていることを初めて明らかにした。コロナ禍の真っ只中にあった令和3(2021)年度には19,110にまで悪化している。3,000程度で赤字路線ランキングが構成されていた国鉄時代と比べれば衝撃的な数値だ。

 ちなみに、国鉄末期に廃止された赤字ローカル線は輸送密度(1日1kmあたりの平均利用客数。平均通過人員ともいう)が4,000人/日未満との基準に基づいて選定されたが、令和4(2022)年度の久留里線の同区間の平均通過人員は、JRが発足した昭和62(1987)年度より93%減となる54人/日にまで落ち込んでいる。このような超閑散路線が、東京駅から特急列車で1時間ほどの東京近郊区間内にあるのは意外な感じがする。

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いざ久留里線が発着する木更津駅のホームへ

久留里線の出発案内(木更津)。上総亀山行きは7時25分発のあと5時間半以上も列車がなく、途中の久留里止まりが続く

 非電化路線である久留里線のディーゼルカーは、木更津駅の4番線に発着する。ホームからは、蒸気機関車時代に建てられた木造車庫や方向転換用の転車台(ターンテーブル)を遠目に眺めることができて、都心部への通勤路線として賑わう内房線ホームの雰囲気と一線を画している。

木更津駅構内の車両基地。木造の機関庫は屋根上に煙出し(凸型の突き出し部分)が設けられていて、蒸気機関車時代の名残をとどめている。建物の右後方にはターンテーブル(転車台)も見える

 木更津へは東京から特急や快速列車が頻発しているが、上総亀山まで列車で行く選択肢は実は少ない。令和5(2023)年12月時点のダイヤだと、上総亀山行きの列車は1日8本。

 ただし、木更津発上総亀山行きの列車は、朝7時25分の次は13時01分まで5時間半以上ない。その次は15時53分発で、これだと冬は上総亀山に到着する前に日没時刻を過ぎてしまう。

 私が久留里線に初めて乗ったのは32年前の平成3(1991)年10月だが、当時は上総亀山行きの列車が1日14本もあって、2時間以上も列車がない、という空白の時間帯はなかった。

木更津駅4番ホームに停車する上総亀山行き
上の画像とほぼ同じ位置で平成3年に撮影。右後方に今はなきダイエーの看板が見える

路線内に有人駅はわずか2つだけ

 7時25分、木更津駅4番線から3両編成の上総亀山行きが出発。乗客は3両合わせて22人。朝早いせいか、冬休みとはいえ鉄道ファンの姿は少なく、地元客が大半だった。