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作家・万城目学が語った“直木賞との関係性”「今までは横にいて、一緒にぼやき漫才をしてくれていたけれど…」

直木賞受賞・万城目学さんインタビュー

2024/01/21
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あの建物は何?

――会見では脱出ゲームと、地獄のUNOもなさったとおっしゃっていましたよね。

万城目 綿矢さんに連絡したら「脱出ゲームはしなくて大丈夫でしょうか?」という返事が来て。「綿矢さんは脱出ゲームとか好きなんですか?」と訊いたら、「やったことありません」って。何やそれと思いつつ、僕が全部予約しました。

 脱出ゲームの場所が、選考会が行われる築地の新喜楽の近所やったんです。僕が「さて、あそこは何でしょうか?」って料亭の建物を指さしたつもりが、綿矢さんは最初、新喜楽の隣の「すしざんまい」のほうを見ていて。なかなか噛み合わなかったです。

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――面白すぎます。

万城目 その後、上田さんが遅れて合流して、ルノアールの個室で綿矢さんが持ってきた「UNOアタック」を使って永遠に終わらない地獄のUNOをやり、疲れ果てたら夜の7時でした。時間が経つのが早いというか、直木賞の存在を忘れるというか。あれはお薦めの待ち方です。

©文藝春秋/撮影:松本輝一

――昨日の会見で、最後に「次は森見さんだと、バトンを渡したいと思います」と言って会場の後ろに視線を送られたので振り返ったら、森見さんがニコニコして見守ってらして。盟友同士の交流にちょっと胸が熱くなりました。

万城目 森見さんは会見で質問したかったらしいですよ。「僕もいつか獲れるでしょうか」って。僕は「あと3回くらい無理じゃないですか」と答えたでしょうけど。

「険しき直木賞マウンテン」

――森見さんと万城目さんはそれぞれ、ユーモアと空想力を炸裂させた独自の世界を書かれてきましたよね。万城目さんは最初に直木賞にノミネートされたのが2007年の『鹿男あをによし』(幻冬舎)の時で、今回が6回目でした。

万城目 2007年に森見さんも『夜は短し歩けよ乙女』(KADOKAWA)で初ノミネートされているんです。そんな因縁で、森見さんとは直木賞について「自分たちはカテゴリーエラーなんだろう」とよく話していました。「険しき直木賞マウンテン」と、山にたとえて、みんなが登っていく正規の登攀ルートがあるにもかかわらず、自分たちはわざわざ未踏破の「面白ルート」にトライしては毎回滑落しているんじゃないか、って。

記者会見にも森見登美彦さん、綿矢りささん、ヨーロッパ企画の上田誠さんが駆け付けた ©文藝春秋/撮影:松本輝一

――すでに独自の作品世界と読者を獲得されているけれど、やはり賞って意識しますか。

万城目 直木賞に受け入れてもらえるように作風を変える、といった発想は全然なかったんですけれど、でもノミネートされて無視できるかと言うと、それはできないわけですよ。で、「どうせあかんやろ」と言っていじけるんです。だから、作風には影響を及ぼさなかったけれど、メンタルの面でとらわれていたかもしれません。

 昨日、会見の後、編集者さんたちが集まってくれて一言ずつお祝いの言葉をくれたんですけれど、ことごとく「ノミネートされてから、どうせあかんわ、とネガティブなことばかり言っていた」という入り方で、僕は自分が思っていた以上にいじけていたみたいです。「今回でそれがなくなるので本当によかった」ってみんなに言われました。