躁うつ病(双極性障害)を患い、大学を休職、ついには離職に至った與那覇潤さん。このたび『知性は死なない――平成の鬱をこえて』を上梓し、詳細に体験を著しました。本書の第2章より、「『うつ』に関する10の誤解」を5回シリーズで公開します。
誤解7 若い人に「新型うつ病」が増えている
「うつ病になりやすい性格は存在するのか」についての学説の歴史が知られないまま、ぽんと世のなかに出て不幸な流行をみたのが、「新型うつ病」をめぐるスキャンダルだったと思います。
新型うつ病とは、2010年の前後につくられたマスコミによる造語で、「精神科医にさえ理解不能な『新しいうつ病』で、会社に出てこなくなる(おもに若い)社員が増えている」という形で流布された概念です。
いわく、ふつうはうつ病だと宣告されると「私はそんな病気ではない」と否定するのに、彼らは平気で受け入れる。これまでは「病気になった私が悪い」と自分を責める人が多かったのに、彼らは上司や同僚など他人のせいにする。休職して職場にはいかないくせに、海外旅行のようなたのしいイベントには平気でいく。
――こうした報道のされ方をしたせいで、「それはただのわがままじゃないのか」「ゆとり教育で、若者を甘やかしたからこうなったんだ*」という、猛烈なバッシングをまねくことになりました。
しかし、そもそも正式な精神医学の用語には「非定型うつ病」というものはあっても、「新型うつ病」はありません。その非定型うつ病とはなにかといえば、先にのべたメランコリー親和型の人たちが発症する典型的な(定型の)うつ病ではないにもかかわらず、類似の症状が出ていることをいうのです。(18)