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2008年の公開時も大ヒットだったが…なぜ福山雅治vs.堤真一の『容疑者Xの献身』は「2024年のほうが“胸に突き刺さる”」のか

2024/03/23

source : 週刊文春CINEMA オンライン オリジナル

genre : エンタメ, 映画, テレビ・ラジオ

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今観るとより一層残酷さが際立つ二人の対比

 本作のテーマは紛れもなく「愛」で、それは湯川の物理学者としての論理的アプローチでも解き明かすことのできないものだ。

 しかし、2008年当時よりも、今観るとより一層残酷さが際立つのは、かつての友人同士である湯川と石神の対比である。

「湯川、お前はいつまでも若々しいな。羨ましいよ」

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 別れ際に石神に言われ、少し驚いた顔をする湯川。当時の福山ときたら、実際に小リスのようにキュルキュルな可憐さで、その傍らに立つ石神はというと、背中が少し丸まり、白髪まじりで枯れ木のような様子で、実際、「大学時代の友人」にはあまり見えない。

 その見た目の違いに、物理、数学と異なるものの、共に「理系分野の天才」だった二人が、大学を出た後に片や大学の准教授、片や死んだ目で日々を過ごす高校教師と、対照的な人生を歩んできた様子が窺える。生活や環境が人間を作るという残酷なリアルは、2008年当時よりも世の中の格差が格段に大きくなっている今、強く胸に突き刺さる。

 また、容疑者の「献身」の優しさや愛情と、ある種の傲慢さや非情さが共存しているという人間の矛盾にも、リアリティと共に後味の悪さを少々感じる。圧巻なのは、最後の石神の慟哭――そこに込められた思いを何度も反芻しては考えてしまう『容疑者Xの献身』。それは、ポップで楽しいドラマシリーズとは一線を画した、苦みのある濃密な人間ドラマなのだった。

容疑者Xの献身 (文春文庫 ひ 13-7)

容疑者Xの献身 (文春文庫 ひ 13-7)

東野 圭吾

文藝春秋

2008年8月5日 発売

2008年の公開時も大ヒットだったが…なぜ福山雅治vs.堤真一の『容疑者Xの献身』は「2024年のほうが“胸に突き刺さる”」のか

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