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ベテラン俳優に「前貼りを取りたい」と言われたら…「空気を読むのが得意でも“NO”が苦手」な日本でたどり着いた〈3つのルール〉

インティマシー・コーディネーター浅田智穂さんインタビュー #2

2024/03/31

source : 週刊文春CINEMA オンライン オリジナル

genre : エンタメ, 映画

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 映像作品のキスやセックスなど性的シーンの撮影に、「インティマシー・コーディネーター」が加わることが増えている。今や、アメリカの映像業界では当たり前に存在する職業だが、日本でこの肩書きを持つのはわずか2人。それだけに、彼らの役割や必要性について、まだまだ理解されていない部分も多い。そもそもインティマシー・シーンとは? 現場ではどんな仕事をしているのか? 日本初のインティマシー・コーディネーター、浅田智穂さんに聞いた。(全2回の2回目/最初から読む)

◆◆◆

――インティマシー・コーディネーター(以下IC)という仕事ですが、アメリカの映像業界で始まった仕事ですよね?

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浅田 そうです。元々は「インティマシー・ディレクター」という演劇界の仕事から始まり、映像業界で拡がったようです。初めてスタッフ・クレジットで流れたのは、2017年のテレビドラマ『The Deuce(邦題:『ザ・デュース』)だと聞いています。演劇界の「インティマシー・ディレクター」は、ICより演出やステージングを行う役割ですが、同意を大切にし、俳優の安全を守るというところは同じです。

――日本とアメリカのICとの大きな違いは?

浅田 アメリカのICは、アメリカの俳優組合のルールに基づいて動きます。アメリカの俳優組合では俳優の権利を守るために、労働時間や環境整備など、仕事上のルールが非常に細かく定められているんですね。インティマシー・シーンに関するルールもその1つ。それらのルールを順守するため調整するのがICの仕事なのですが、日本には俳優組合がなく、ルールもありません。

アメリカ感覚は理解されず…日本用「3つのルール」に

――浅田さんはICについてアメリカのカリキュラムで学び、日本で仕事を始めました。日米の映像業界の違いから、最も苦労された点は何ですか?

浅田 先ほども申し上げた通り、日本の映像制作現場には、そもそもアメリカのように細かいルールが存在しません。ですから、インティマシー・シーンで細かに同意を得ることの意味や大切さがなかなか理解されず、苦労しました。

俳優組合が細かくルールを定めているアメリカとは日本は元々の状況が異なったという ©鈴木七絵/文藝春秋

――アメリカのやり方をそのまま持ち込んでもうまく伝わらない。

浅田 はい。そこに気づくのに時間がかかってしまいましたが。2年前くらいに、私なりに皆さんに伝わりやすいよう、最も大事なポイントを「3つのルール」に落とし込んだんです。

――3つのルールとは?

浅田 1つ目は、インティマシー・シーンでは事前に俳優に説明して同意を得たことしかしない。2つ目は性器の露出がないように必ず「前貼り」をつける。3つ目は、多くの人目に触れないよう、インティマシー・シーンはクローズドセット(必要最小限のスタッフで行う撮影)で行う、という内容です

――つまり、心と体、空間の安全・安心を守ってください、ということですね!

浅田 そうです、そうです。私は仕事の依頼をいただいたら、この3つのルールを順守していただけるか否かをまず確認し、了承していただいた場合のみ引き受けています。

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