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ベテラン俳優に「前貼りを取りたい」と言われたら…「空気を読むのが得意でも“NO”が苦手」な日本でたどり着いた〈3つのルール〉

インティマシー・コーディネーター浅田智穂さんインタビュー #2

2024/03/31

source : 週刊文春CINEMA オンライン オリジナル

genre : エンタメ, 映画

note

――一度、同意したことでも断ることが出来るんですか?

浅田 できます。何故なら、撮影当日までに、その俳優の身に何が起こるかわからないですし、それによって気持ちに変化があるかもしれません。例えば、現場で嫌な思いをしたり、あるいは私生活で問題が起こったりする場合もあります。ですから、一度同意したことでも覆せることは、すごく大事なんです。

実はキスシーンが難しい

――ICの立場として、インティマシー・シーンにおけるリアルとリアリティの境界線は何だと考えますか?

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浅田 あくまでもお芝居はお芝居である。それが答えではないでしょうか。作品中、セックスシーンでいくら俳優の息が上がり、声を出していても、本当に感じているわけではありません。撮影現場でリアルを求める監督もいますが、ICは「お芝居である」ことを常に訴えていかなければなりません。ただ、この話の流れで言うと、実はキスシーンが難しいんです。

――確かに。セックスシーンは「ふり」が出来ますが、キスは唇と唇がくっつかないとシーンが成り立たないですよね。

浅田 そうなんです。それこそ「嫌だ」と感じている人は多いと思うので、意思の確認の段階からすごく慎重に進めています。

良い作品には良いお芝居、良いお芝居には安心できる環境

――最後に、この仕事にやりがいを感じる瞬間を教えてください。

浅田 やっぱり、制作チームの1人として、良い作品の制作に参加したい。それが、私がこの仕事を続ける理由です。

後進育成のプログラムも開始した ©鈴木七絵/文藝春秋

 良い作品には良いお芝居が必要ですし、良いお芝居が成立するためには、俳優が不安なく、安心してお芝居に打ち込める環境を整えることが大切だと考えます。ですから、一緒に仕事をしたことのあるスタッフが脚本を読み、「この作品にはICを入れなくてはダメだ」とプロデューサーに掛け合ってくださったという話を聞くと、すごく嬉しい。

 日本におけるこの仕事はまだ始まったばかりです。ICの数も十分ではありません。今後は後進育成にも力を入れていきたいですね。

 

あさだ ちほ 1998年ノースカロライナ州立芸術大学(University of North Carolina School of the Arts)卒業。帰国後、東京国際映画祭や日米合作映画『The呪怨』、舞台『レ・ミゼラブル』などで通訳を務める。2020年にIntimacy Professionals Association(IPA)にてインティマシー・コーディネーター養成プログラムを修了し、IPA公認のもと活動開始。Netflix作品『彼女』で日本初のインティマシー・コーディネーターとして参加。以後映画『怪物』、ドラマ『エルピス』『大奥』などに参加している。今年から日本でインティマシー・コーディネーターを育成するトレーニングプログラムも開始。

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