エマ・ストーンの「人種差別」疑惑
番組後半の主演部門の勝者2人は、プレゼンター全員にお礼をするようつとめたようだ。
主演男優部門ではスムーズに握手していって終わったが、主演女優が議論を生んだ。サプライズ受賞した白人のエマ・ストーンは、ドレスのジッパーが壊れていたこともあってパニック気味で、壇上にあがると、近くにいた向かって右端のシャーリーズ・セロンとジェシカ・ラングに衣装の故障を告げた。そしてセンター位置のアジア系の授与者ミシェル・ヨーの方に向かったが、数秒のうちにヨーの左隣にいたジェニファー・ローレンスと会話がはじまり、そのローレンスがオスカー像を彼女に与えて抱擁した。この間、左端のサリー・フィールドはローレンスを止めるかのように衣装をひっぱっていた。像を受け取ったストーンは賛辞者だったフィールドと抱擁し、急いでセロン、ラング、ヨーとの握手をこころみたのち、演説に入った。
この混乱から生じた説こそ「白人のストーンとローレンスが横暴にアジア系のヨーから像を奪った」人種差別的な疑惑である。しかし、翌日、ヨーその人がSNSにて経緯を明かした。「エマ、おめでとう！ 混乱させてしまったけど、輝かしいオスカー授与の瞬間を、あなたの親友のジェニファーとわかちあいたかった」。つまり、ヨーこそが、親友コンビとして有名な2人との授与の瞬間を求めていたらしい。
個人的には、ヨーのコメントに信憑性を感じる。多くの人の意見がわかれていった一因には、カメラワークの問題がある。
主演女優賞授与の別アングル映像では、受賞が発表された瞬間、カメラ外のヨーがローレンスに寄っていってなにかを言っている。あくまで想像だが、このやりとりが親友同士の授与の相談だとしたら、ヨー提案のアドリブだったことになる。一部で「後輩を掴んで授与の役目を奪おうとした」疑惑をかけられたフィールドにしても、二人の話を聞かされていなかったため、授与中に驚いて止めようとしたのかもしれない。
受賞者と授与者の対面では、両者の視点がいきちがった。まず、衣装故障を確認しようとしたセロンに触れられて反応したストーンの視点がそれた。ほぼ同時にヨーが顔をそらしてローレンスのほうに向かい、当人が書いたようにストーンを戸惑わせることとなった。そこからオスカー像をローレンスのほうに傾けていって持ちあげたのはヨーである。
主に日本語圏のSNSでは、ヨーのコメントを踏まえた上で「ストーンとローレンスには礼儀が欠けていた」「それこそアジア系蔑視のあらわれ」とする意見もあるし、声明自体を「白人を庇うための嘘」だと疑う向きもある。一般視聴者が感想や批判を表明していくのは基本的に自由だろう。
自分も、授賞式を観た時、勝手な考えが浮かんだ。主演女優部門のもう一人の有力候補であったリリー・グラッドストーンが勝っていたなら、ミシェル・ヨーは自分一人で像を渡していたかもしれない。同部門2人目の非白人ウィナーたる彼女が先住民たるグラッドストーンに像をわたせば、前年同様、素晴らしい瞬間になっていただろう。
