どんでん返しはなく、良くも悪くも安定路線。だが、じっくり見ると、いくつも新しいことがある。今年のアカデミー賞授賞式は、近年投票母体が着実に変化を続けてきたことを、しっかりと反映したものになった。
受賞結果は、ほぼ下馬評通り。『オッペンハイマー』の作品、監督、助演男優(ロバート・ダウニー・Jr.)部門受賞、そしてダヴァイン・ジョイ・ランドルフ(『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』)の助演女優部門受賞は、わかりきっていた。キリアン・マーフィ(『オッペンハイマー』)とポール・ジアマティ(『ホールドオーバーズ~』)の接戦だった主演男優部門はマーフィ、リリー・グラッドストーン(『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』)とエマ・ストーン(『哀れなるものたち』)の対決だった主演女優部門はストーンが勝利を収めたが、驚きはない。
グラッドストーンが受賞すればネイティブ・アメリカンの女優として初となり、多様化を推進するアカデミーをさらに喜ばせたことだろう。しかし、それがなくても、今回のアカデミー賞には、「初めて」が実はたくさんある。
“英語以外の作品”の初受賞ラッシュ
『ゴジラ-1.0』の視覚効果賞受賞はそのひとつ。非英語圏の映画がこの部門を受賞するのは、史上初。監督が視覚効果部門を受賞したのも、『2001年宇宙の旅』(1968)のスタンリー・キューブリック以来となる。音響部門はドイツ語の『関心領域』、脚本部門はフランスの『落下の解剖学』が受賞。英語以外の作品がこれらの部門を制覇するのも、初めてだ。
長編ドキュメンタリー賞に輝いたのは、『実録 マリウポリの20日間』。ウクライナの映画がオスカーを受賞したことは、これまでにない。それ以前に、今年、この部門の候補に英語を母語とする人たちについての映画はひとつもなかったのだ。Netflixは『ジョン・バティステ:アメリカン・シンフォニー』、Apple TV+は『STILL:マイケル・J・フォックス ストーリー』のために熱心なキャンペーンをやっていたが、これらはずっと規模が小さい海外の作品に敗れて候補入りしなかったのである(ただし『ジョン・バティステ~』は歌曲部門に入った)。