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 また、初監督作品『アメリカン・フィクション』で脚色賞を受賞したコード・ジェファーソンは、「2億ドルの映画をひとつ作るのではなく、1,000万ドルの映画を20本、いえ、400万ドルの映画を50本作ってくれませんか。僕は今、ここにいられることに大きな喜びを感じています。(才能を持つ人は)ほかにもたくさんいます。次のスコセッシ、次のグレタ(・ガーウィグ)、次のクリストファー・ノーランになれる人たちが」と、新人監督や新しいアイデアをリスクと捉えずに門戸を開いて欲しいと、スタジオに向けて訴えかけている。

トランプに「そろそろ刑務所に行く時間ではないですか?」

 ホロコーストを扱う『関心領域』、ロシアのウクライナ侵攻についての『実録 マリウポリの20日間』の受賞スピーチは、現在起きている戦争についてパワフルなメッセージを送るものだった。しかし、それを除けば、かつてと違い、全体的に政治色は薄め。そのバランスは、授賞式のプロデューサーも意識をしているようだ。だから、授賞式の最後に、司会者のジミー・キンメルが、トランプがソーシャルメディアに投稿したばかりの文章を読み上げようとすると、プロデューサーは反対したのだという。それを押し切って、キンメルは舞台の上でスマホを取り出し、「オスカーのジミー・キンメルよりひどい司会者はこれまでにいたか? 彼のオープニング(のジョーク)は、平均以下の人間が自分以上のものになろうと必死になっている姿そのものだ。あいつを追い出せ」というその文章を紹介した。締めくくりは、トランプのスローガン「Make America Great Again」だ。

 読み上げた後、キンメルは会場に「これを書いたのは過去に大統領だった人です。誰だと思いますか?」と問いかけた上で、トランプに向け、「見ていてくださってありがとうございます。まだ起きていらっしゃるとは。そろそろ刑務所に行く時間ではないですか?」と、やり返した。予定外のキンメルの行動には賛否両論あるが、これくらいの刺激はあったほうが痛快というもの。個人的には、彼がまた来年司会を務めてくれるなら、大歓迎である。

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ド派手なピンクスーツで「I’m Just Ken」をパフォーマンスするライアン・ゴズリング © AFP=時事

 だが、今回の授賞式のスターは、なんといっても『バービー』の挿入曲で歌曲部門の候補になった「I’m Just Ken」をライブで歌って踊ったライアン・ゴズリングだ。あのパフォーマンスは、一気に会場にエネルギーを与えた。助演男優賞を逃した彼は受賞スピーチをする機会はもらえなかったが、誰もの記憶に一番残ったのは彼。ああいう瞬間が来年もまたあることを願いたい。