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ソフトバンク・中村晃が自分のためではなくヒトのために打ったヒット

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/05/23

 このコラムに辿り着いた読者のみなさんに、ぜひ知っておいて頂きたいことがある。

 ホークス名物企画「鷹の祭典」に匹敵するほどの一大イベントに成長した「タカガールデー」が、今年は球団創設80周年を記念して初めて2日間にわたり開催された。

 5月12日、13日のファイターズ戦。ヤフオクドームは両日とも38,530人の超満員(今季6、7度目)。そのうち女性来場者が初日は27,231人、2日目が28,677人を占めた。1試合開催だった昨シーズンの30,357人には及ばなかったものの、計55,808人の“タカガール”動員は史上最大規模だ。じつにスタンドの7割以上が女性ファンだったというわけだ。

毎年人気の「タカガールデー」

 人気の最大の理由は、やはり女性客限定でピンクを基調とした「タカガールユニフォーム」が無料で配布されること。毎年デザインが変わり、かつ斬新なアイデアが反映されるそれは、ホークス女子たちの必須アイテムとなっている。ちなみに今年は天神や博多などの繁華街で人気投票を実施して、9種類の候補の中から花火柄ユニフォームが選ばれた。

「鷹をイメージした羽のデザインや今年のトレンドのチェリー柄も人気でしたが、ホークスといえばヤフオクドームの『勝利の花火』を連想したタカガールが多かったみたいです。また、花火柄はお祭りも意識しました。福岡は女性もお祭り好きな人が多いです。それに、このデザインは人がたくさん集まれば集まるほど映えるんです。スタンドに『勝利の花火』を咲かせてほしいですね」(タカガールプロジェクトチームの女性球団職員)

 3万人に迫るタカガールが集結したスタンドはまさにピンク一色だった。鮮やか、そしてド迫力。毎年のことながらその景色には驚かされっぱなしだ。

ピンク色に染まったヤフオクドーム ©田尻耕太郎

 近年は「野球女子」が世間的にも認知され、カープ女子を代表格にオリ姫、TORACOなどもすっかり定着した感がある。正直、福岡での盛り上がりとは裏腹にタカガールというネーミングが全国へ広まっているかというとビミョーなところだ。しかし、この女性向けのイベント試合に関して言えば、前身の「女子高生デー」が始まったのが2006年シーズンで、以来毎年継続して行ってきた。この歴史と先見の明は、ホークスファンは誇りに思っていいのではなかろうか。

 そして、各塁のベースをはじめネクストバッターズサークル、マウンド後方のチームマーク、大型ビジョンの文字などもピンク仕様になるなど、タカガール一人一人が主役となり楽しんでもらうための特別な演出、創意工夫があちこちで見受けられた。

 しかし、これらは単に、女性に喜んでもらうだけが目的ではない。もう一つ、大切なメッセージが含まれているのだ。

 すっかり前置きが長くなったが、ここからが本題である。

きっかけとなった鳥越コーチの存在

 ベースやネクストバッターズサークルにはリボンの模様が描かれていた。また、選手が着用した帽子やヘルメットにも同じマークを見ることが出来た。これは「ピンクリボン運動」のシンボルマークだ。乳がんの撲滅、検診の早期受診を啓発するこの活動。ホークスでは女性向けイベント試合に合わせて広く呼びかける取り組みを、2009年から行っているのだ。

 試合前には選手たちからファンへパンフレットなどの手渡しが行われ、ヤフオクドーム内のコンコースでもピンクリボン運動の特設ブースも設置されている。

 このきっかけとなったのが、昨年までホークスに在籍し、今年からはマリーンズでヘッドコーチを務める鳥越裕介コーチの存在だった。

 2008年に妻を乳がんで亡くした。34歳の若さだった。

「妻が亡くなってから、球団にこのような活動を提案し、協力をしてもらった」

 鳥越コーチの思いに球団、選手が強い思いで賛同して、今年で10年目を迎えるまで継続されてきた。

「このような活動を通して、皆さんが乳がんのことを知っていただければと思います。今は早期発見、早期治療で治ると言われています。他人事だと思わず、男性の方も家族と話をするなどして、ぜひ検診に行ってください。1人でも助かってほしいと思って、やっています。ぜひ、検診に行ってください」

 鳥越コーチは毎年、マイクを握ってたくさんのファンに呼びかけた。どれだけ時間が経過しても悲しみが癒えることはない。毎年、目を真っ赤にして、言葉を詰まらせながら声を絞り出していた。「それくらい、本人も周りもきつい病気です」。