プロ野球に限らず、コアなファンは一人一人が贔屓チームの“監督”だ。

 わたくしカト淳は、本拠地ヤフオクドームで行われるホークス戦全試合をスタンドや球場外でファンの皆さんと触れ合いながら取材放送をしている。本当に多くの方々との出会いがあるし、一方で毎試合のように球場で顔を合わせたり声をかけてくれたりする常連さんも少なくない。その方たちの話を聞くと、ひょっとしたら解説者よりも野球に詳しいんじゃ? と驚かされることも珍しくないのだ。

 じつは、そんな超がつくほど野球に詳しすぎるファンの方が集まる席はだいたい決まっているのだ。どの場所から、どんな観戦をしているのかを紹介したい。

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ジェット風船で黄色く染まったヤフオクドーム

「なんでベースカバーに行ってないんだ!」

「三度の飯よりプロ野球」といった精神で野球場に通う人は、“毎試合同じ席で観たい”と声を揃える。だからこそ違いが見えるし、ボールの軌道が良くわかるというのだ。

 毎試合のように同じ顔ぶれで野球談議に花が咲いている席がセンターバックスクリーンのすぐ横あたりの一角だ。ここは球場全体が見渡せるうえに、キャッチャーの構えに対しての配球をほぼ正面から観ることができる。

カメラマン席うしろからの風景

 たとえば5月4日のホークス対バファローズ戦。9回を迎えた時点ではホークスがリードしていたが、救援陣の中でも安定した結果を残している左腕のモイネロがバファローズのルーキー福田にライト前に運ばれて同点とされてしまうシーンがあった。

 私はイヤホンでラジオ中継を聞きながらスタンドを歩き回っている。プロ野球解説者は投球とバッティングについて解説し、実況アナウンサーは先発だった東浜の今日の勝ちがなくなった事を伝えた。特に不自然ではない。しかし、センター横から観る常連客の視点は違ったし、何とも深かった。

 彼らはモイネロに罵声を浴びせたが、打たれたことではなかった。

「なにやってんだモイネロ! なんでベースカバーに行ってないんだ!」

 確かに振り返ってみると、ランナー1、3塁でライト前に運ばれ、ライトの上林からは1塁ランナーを刺すために強い送球がサード松田にいった。その時、モイネロがマウンド付近にいたのだ。もし送球が逸れたら一塁走者が一気に逆転のホームインになっていた危険があったのだ。

「試合の劣勢やミスは当たり前にあるわけだから、ダメージを最小限にせんといかんとよ」と冷静に話す常連客。なぜそういう細かい所に気づくのかを尋ねると「ボードゲームの野球盤を上から見ている感覚でプロ野球を観ようけんね」とちょっと誇らしげに返ってきた(笑)。