「どこでもいいから投げたい」。開幕前にそう話していたプロ5年目の石川柊太投手。
昨年は「一軍デビュー→プロ初勝利→先発ローテ入り」とトントン拍子で“出世”した右腕でしたが、今季は開幕ローテに入れず中継ぎでのスタートでした。4月1日のオリックス戦では2番手で好投し1勝目をマーク。その後もあらゆる場面で地道に好結果を積み重ねて、工藤公康監督からの信頼度を高めていきました。
そんな中、ホークスに大事件が! 開幕投手を任された千賀滉大投手が右肘周辺の張りで登録抹消となり、早くも開幕ローテーションが崩れてしまったのです。そこで白羽の矢が立ったのが石川投手! 12日、本拠地ヤフオクドームでの日本ハム戦で今季初先発のマウンドに上がると、7回4安打無失点の素晴らしいピッチングでチームを勝利に導いたのでした。
初めて一軍で戦った昨季も、中継ぎからスタートするも、今回のように先発陣の故障危機で初先発の機会が回ってきたのでした。その試合で育成出身選手として球団史上初の初先発初勝利を挙げてお立ち台に上がるなど、先発・中継ぎの“二刀流”でチームの日本一に貢献しました。
「先発ローテを争う立場と言われますが、どこででも、投げられることが1番。良い意味で、どこでもいいから投げたい。どこででも投げさせてもらえるありがたさを感じて投げたい」
そんな謙虚な言葉を並べつつも、にじみ出るガムシャラさを感じました。
ホークス打線を助ける投球リズム
「今年も自分らしく“何でも屋”で。投げられれば幸せ、ぐらいな気持ちで」
育成時代の苦労もあってか、“ハングリー精神”と表現する石川投手のマインドは、好調でも不調でも、脚光を浴びても、いつも変わりません。「そうすれば、1つの登板が粋に感じて投げられるようになるかな」と1つ1つの登板を大切に、感謝を込めてマウンドに上がっているようでした。
その1つ1つの気持ちが感じられたのが、まさに12日の登板でした。先発を正式に言い渡されたのは2日前。中継ぎから中3日でのマウンドでしたが、それでも、自分らしく1回1回を中継ぎのつもりで全力投球! 初回を3者連続三振に切って取ると、7回110球を投げ抜き、無失点でバトンを繋ぎました。
それだけでも相当な体力を要するのに、石川投手の投球テンポと言ったら、大好きな「ももクロ」の曲並みにみんなが乗りやすい好テンポ。この日の試合は、日本ハム・マルティネス投手の好投もあり、試合時間2時間32分。ここまでのホークスの平均試合時間3時間17分を大幅に下回るハイペース。観ている側としては、テンポよく引き締まった試合でとても嬉しいけれど、投げている本人のスタミナは大丈夫なのか、気になりました。
「息が上がっているときもあるけど、勢いで! 疲れていても、リズムが良い時にいかないと」
自らのスタミナを犠牲にしてでも大事にするこのリズム。実はこれが打線にも良い流れを作っていたのです。野手陣から「リズムが良いから守っている時間が短い」と好評で、それが守備のリズムとなり、攻撃のリズムにも繋がるというのです。たしかに、石川投手の先発時、チームはよく点を取ります。昨季の初先発の時は、先発全員となる16安打7得点で勝利しました。
日本ハムのマルティネス投手は良いピッチャーで、しかもホークス打線が苦手とするといわれる初対戦の投手。苦戦を強いられましたが、それでも9安打3得点。石川投手は“もってる男”だと思っていましたが、運だけではなくてこれも石川投手の全力投球の賜物だったのですね。
野手陣は良いテンポで守れて打てるし、投球間が短いため、相手打者には考える時間を与えないし、観客は試合が早めに終わることで平日でも飲みに行けるし、経済は回るし……。みんなが喜ぶ石川流“ももクロリズム”で、これからもどんどんチームに勝ち星をもたらしてくれるでしょう!