アメリカン・エキスプレスのCMに出演するなど米国の映画界の新世代を担う映画監督として注目されてきたウェス・アンダーソン。アカデミー賞を4部門で受賞した『グランド・ブダペスト・ホテル』に続く『犬ヶ島』は、日本を舞台にしたストップモーション・アニメーションだ。
「パペットをコマ撮りして制作する古くからある手法です。それが技術の発達によって表現手段としてとても豊かになった。私の監督作としては『ファンタスティックMr.FOX』に続き2作目になりますが、実写では難しいファンタジーを描くことが可能なんです」
物語の舞台は、未来の日本の架空都市。犬の疫病を恐れた市長は、犬をゴミ島に隔離する。市長の養子の12歳の少年アタリが、親友だった愛犬を探すためにゴミ島へ行くという冒険譚だ。
「“創作を始めるときはふたつのアイデアをミックスする”という劇作家のトム・ストッパードの意見に僕も同意します。最初に、捨てられた犬たちの物語というアイデアがありました。次に舞台は日本がいいんじゃないかと思い始めました。日本映画が大好きでいつかは日本に関するなにかをやってみたいとずっと考えていたからです」
日本映画でもとりわけ影響を受けたのが黒澤明と宮崎駿というふたりの巨匠だ。
「黒澤はストーリーテリングを始め映画の師匠とも呼べる存在で、音楽を引用させてもらいました。また、三船敏郎など彼の作品の主人公に似せたキャラクターも登場させました。宮崎駿からは、自然を描くことや音の使い方を学びました。彼の映画には独特の“沈黙”がありますが、これはアメリカのアニメには見られないこと。『犬ヶ島』における“沈黙”は宮崎からの影響なんです」
映画以外にも相撲、歌舞伎、和太鼓などさまざまな日本文化を取り入れ、ウェス・アンダーソンらしい独特の世界観を作り上げている。とりわけ美術が素晴らしい。
「この映画の美術を考えるにあたって参考にしたのは、北斎と広重の浮世絵です。メトロポリタン美術館の学芸員に案内してもらいアーカイブを見て研究しました。制作ルームには、彼らの絵画をギャラリーのように飾り、その世界観をスタッフで共有したんです。紫やグレー、赤といった独特の色調も彼らからの影響ですよ」
アニメながらアーティスティックな作品だが、政治的な野望を原動力に動く人間に立ち向かう犬たちの物語には、今日の社会を反映しているシーンが多々ある。
「この作品の制作を始めたのはもう5年以上も前のこと。でも、作りながら時代がこの物語と類似してきているね、と言い合っていました。とても興味深い偶然ですね」
ウェス・アンダーソン/1969年、アメリカ・テキサス州生まれ。『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(01)でアカデミー賞脚本賞にノミネート。その他の作品に『天才マックスの世界』(98)、『ダージリン急行』(07)などがある。『犬ヶ島』では、渡辺謙、夏木マリ、オノ・ヨーコ、野田洋次郎ら日本人も声の出演を快諾。
INFORMATION
『犬ヶ島』
5月25日(金)より全国公開
http://www.foxmovies-jp.com/inugashima/