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僕は、天才・村田修一という野球選手を忘れない

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/08/03
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 ついに、村田さんの元にNPBからのオファーは届きませんでした。4年間共にプレーをさせていただいた後輩として、何より一人のプロ野球ファンとして非常に残念ですが、このことに関して誰よりも向き合い、考え抜いたであろう村田さんの決断を尊重します。

 記事によると、「来年どこかで野球を続けるということは考えにくい」、「NPB復帰を目指して待つということはない」とありますが、僕は今この原稿を書きながら、村田さんがこのまま帰ってこないのがあまりにも惜しく感じ、そしてやっぱり来年にはどこかでプレーしている姿を見られそうな、そんな気がしてなりません。どんな未来になろうとも、村田さんのことは忘れません。村田さんこそ、「天才」と呼ぶのにふさわしい人でした。

マスコットバット並みの重さのバットを使用していた村田修一 ©文藝春秋

「あそこでストレートはありえねぇ」

「天才」の定義を「クレイジー」と置いた場合、村田さんは決してクレイジーな男ではありませんでしたから、天才ではないでしょう。クレイジーといえば、石井義人さん(横浜ー西武ー巨人)。西武時代の石井さんがあまりにも簡単にヒットを打つので、「石井さん、どうやったらあんなに簡単にフォークを打てるんですか?」と聞いたところ、「フォーク? こう、ボールが来るじゃん。それで、落ちるじゃん。それを、打ったらいい」と言われ、それ以上聞くことを諦めました。プロ野球には、こういうクレイジー型の天才はまだまだたくさんいます。

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 一方で、村田さんがフォークを打ったエピソードは、非常にロジカルです。2010年3月のオープン戦、相手はオリックスで、ピッチャーは木佐貫洋さん。二死でカウントはフルカウント。村田さんは、その状況から木佐貫さんのフォークボールを左中間スタンドに3ランホームランを打ちます。ベンチに帰ってきた村田さんに、誰よりも早く質問しました。

「村田さん、まさか、フルカウントからフォーク狙ってたんですか?」

「おう、狙ってた。あそこでストレートはありえねぇ。投げるならフォーク。低めは全部ボールでフォアボールになる。だから、高めのフォークだけに絞ってた」

 過去の対戦、状況など、なぜあそこで木佐貫さんがフォークを投げる可能性が高かったかということを丁寧に教えてくれました。攻守交代で守備に向かう時、「勉強になったか?」と言ってベンチを出ていく姿に惚れ込んだことは言うまでもありません。

 打席の中での村田さんは非常に冷静です。配球、試合の流れ、過去の対戦データは常にインプットされており、ピッチャーのクセを掴む能力は球界随一だったと思います。

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