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本田圭佑監督の無茶ぶりで「カンボジア代表」に“転職”したスポーツライターの話

2018/10/07
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本田の指示は「ミスしたら俺に笑いかけて」

 すると期待通り、ケイスケホンダは監督としても常識にとらわれていなかった。たとえばマレーシア戦のスタジアムへ出発する直前、本田はホテルのミーティングでこう語った。

「今日はエンジョイすることを俺に約束して。たとえミスしてもエンジョイしよう。もしミスしたら、俺に笑いかけてくれればいいから」

 ミスをしたら笑え、と指示する監督は世界でも稀だろう。ちなみにミーティングのほとんどは本田が英語で話し、マネージャーがクメール語に訳すというスタイル。本田は毎日2時間英語を勉強しており、かなり流暢だ。

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マレーシア戦で初采配をふるう本田監督。熱いゲキを飛ばす姿が印象的だ ©AFLO

 スタジアムに到着すると、あらためて心構えを伝えた。

「サッカーで一番重要なのがゴールであることは、みんなもわかっていると思う。だからと言って失点しても落ち込む必要はないよ。失点してもテイク・イット・イージー。ボールを持って攻撃的に行くというコンセプトを続けよう」

 とにかくこの期間、繰り返し強調したのは「苦しいときこそエンジョイしよう」。本田の人としてのモットーでもある。

「学校の先生みたいなことはしないよ」

 マネジメントのスタイルにも、それが反映されている。一般的に監督は規律を保つために私生活の面で細かいルールを課すが、本田監督は一切ルールを示さなかった。

 選手たちと初めて顔を合わせた日に本田は言った。

「寝不足になるからといって、夜に携帯電話を禁止した監督がいたそうだね。でも、俺はそういう学校の先生みたいなことはしないよ。だからうまく寝られなかったという人がいたら、昼寝するとか、うまく工夫して自分のコンディションをちゃんと整えておいて。自分を成長させられるのは自分だけだよ」

 君たちの可能性を信じている——そんな監督の姿勢がいたる所で伝わってきた。

初陣マレーシア戦は1-3での逆転負けとなったが、試合後に本田は「満足している」と語った ©AFLO