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核・ミサイル開発への集中、軍事的な挑発…世界の常識が通じない北朝鮮の“本当の脅威”とは「日本は完全に射程に入っている」

『核兵器について、本音で話そう』 #1

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 日本はいま、世界で最も危険な核の谷間にある。ロシアは米国と核の均衡を保ちつつ、小型核の先制使用を公言。中国は中距離核ミサイルの開発・配備を猛烈に進めた。さらに北朝鮮も、日本全土を射程に入れた核ミサイルを手にしている。

 ここでは、4人の専門家による核議論を記録した『核兵器について、本音で話そう』(新潮社)から一部を抜粋。共同通信編集委員・太田昌克氏、元軍縮会議日本政府代表部大使・髙見澤將林氏、元国家安全保障局次長・兼原信克氏、元陸上自衛隊西部方面総監・番匠幸一郎氏が「北朝鮮の核」について議論した内容を紹介する。(全2回の1回目/後編に続く

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北朝鮮が核兵器に固執する理由

兼原 北朝鮮が核兵器に固執する理由として、1つには圧倒的な通常兵器を擁する米韓軍に対する最後の拠りどころ、ということがあると思いますが、実は同盟国である中国への牽制もある。北朝鮮は中国が嫌いです。朝鮮民族は、統一新羅以来、一貫して中国王朝に服属した高位の朝貢国です。

 しかし、しょっちゅう中原の中国王朝と北方の騎馬民族王朝に挟まれて痛い目に遭ってきた。朝鮮半島は中国に近すぎて、中国は朝鮮が大きな軍勢を持つことを嫌いますから、朝鮮民族は剥き身の貝のような状態で生き延びねばならない。ですから、彼らは二股外交に長(た)けています。北朝鮮も、中ソが対立している間は、主体外交を唱えて上手く中国とソ連の間を泳いできましたが、最近はロシアの国力が落ちてきたので、「中国の重圧が怖い」というのもあるんじゃないかと思います。 

この写真はイメージです ©iStock.com

 19世紀以降、日米欧といった中国の敵は海から来ました。中国から見ると、渤海湾を囲む山東半島、遼東半島、その先の朝鮮半島は、東京湾を囲んでいる房総半島、三浦半島、その先の伊豆半島みたいな感じだと思います。北洋大臣だった李鴻章はそう考えていたと思います。北京から渤海湾に面した天津まで100キロしかない。

 アロー号事件のとき、英仏軍は天津から入って北京を蹂躙した。地図を見れば分かりますが、山東半島の先端の延長上に、南北の停戦ラインが走っている。毛沢東は、巨大な犠牲を払って朝鮮半島の北半分を取り返した。中国から見たら、新羅統一から日清戦争まで千数百年、自分の勢力圏に置いていた朝鮮半島は絶対に渡せないところなんです。 

 中国は、北朝鮮が核を放棄して日米側に転げ込んで、お金をもらっていい子になるなんてことを許すはずがない。中国は北朝鮮の核は怖くない。そうすると、北朝鮮の核問題は解決しないことが中国の地政学的な利益であるということになる。 

 では、北朝鮮はなぜ米国を挑発するのか。核は黙って持っていれば、それで十分怖いわけです。実際イスラエルはそうしている。これ見よがしに核実験をやって騒ぎ回るのは、中国の重圧をかわすため、アメリカにかまってほしいからです。北朝鮮は得意の二股外交で、米中の間を泳ごうとしている。彼らはその外交に誇りを持っている。だから、これからも挑発を繰り返すでしょう。あんまり明るくない見通しですが。