日本はいま、世界で最も危険な核の谷間にある。ロシアは米国と核の均衡を保ちつつ、小型核の先制使用を公言。中国は中距離核ミサイルの開発・配備を猛烈に進めた。さらに北朝鮮も、日本全土を射程に入れた核ミサイルを手にしている。

 ここでは、4人の専門家による核議論を記録した『核兵器について、本音で話そう』(新潮社)から一部を抜粋。共同通信編集委員・太田昌克氏、元軍縮会議日本政府代表部大使・髙見澤將林氏、元国家安全保障局次長・兼原信克氏、元陸上自衛隊西部方面総監・番匠幸一郎氏が「ロシアの核」について議論した内容を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む

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ロシアの兵器近代化 

番匠 ロシアは中国と逆で、かつてはアメリカに対抗する世界最大の核大国でしたが、冷戦後ソ連も崩壊して国力が落ちてきて、そのプライドを維持するのは荷が重くなってきているというのが大きな構造だと思います。

 ただ、やっぱり昔のプライドは捨てられないし、冷戦に負けたリベンジをしたいというナショナリズムもあるから、レガシーを維持しつつ国力に合わせた形で柔軟に核戦略を変えようとしているのが現状ではないかという気がします。 

 2018年の3月、プーチンは年次教書演説の中で6種類の近代兵器に言及しました。サルマト(大型ICBM)、アバンガルド(極超音速滑空兵器)、キンジャール(極超音速空中発射型弾道ミサイル)、ブレヴェスニク(地上発射型原子力推進式巡航ミサイル)、ポセイドン(原子力無人潜水兵器)、ペレスヴェート(レーザー兵器)です。

プーチン大統領 ©JMPA

 これらは、いずれもアメリカのNPR(核態勢の見直し)への対抗を念頭に、ミサイル防衛システムを突破していく目的で開発されていると考えられます。まだまだレガシーの部分で俺たちは負けないぞ、ということだと思います。実際に、その中で幾つかは実戦配備をしているし、夢物語では決してない。だから、ロシアの兵器近代化には、引き続き注意が必要だと思います。 

 国力に応じて、という部分では、それこそクリミア侵攻とかシリアへの介入の仕方などを見ると、「大国のガチンコ勝負」ではなくなっていて、柔軟に対応して実をとろうという感じになっている。重戦力重視の姿勢は維持しながら、時代に合わせた柔軟な戦略も持ってきているという意味では、冷戦時代に比べても対応が難しくなっています。 

 このような方向性を見ると、やはりロシアの核戦力の近代化は世界の不安定性を増しているのではないかという気がします。典型的な例がINF条約からの脱退です。これはもともとSSC-8(ロシア側名称は9M729)地上発射型巡航ミサイルに対する疑念から始まっている部分がある。新STARTの議論も一応延長にはなりましたけれども、こういう戦略兵器についてもなかなか難しい問題が残っているわけですから、ロシアの戦略というものをしっかりと見て、我々の認識も今の時代に合わせてアップデートしていく必要があると思います。