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「恥ずかしいこともたくさん書いてある」――モモコグミカンパニーが『解散ノート』に綴った本当の気持ち

source : 別冊文藝春秋 2024年3月号

genre : エンタメ, 芸能, 音楽, 読書, ライフスタイル

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小説を書けなかったら表舞台に立たない

――BiSHの活動をしながら『解散ノート』を書いて、さらに小説『悪魔のコーラス』を解散直後の2023年7月に刊行されています。第1作『御伽の国のみくる』とは一味違う小説です。

モモコ 『御伽の国のみくる』は、アイドルの夢破れ、メイド喫茶でバイトを続ける女の子が主人公でした。プロットという言葉も知らず、とにかく勢いのまま書きたいことを書いて出来た作品です。設定を見て「アイドルだから書けたんでしょ」と思う読者もいるだろうと感じていたので、第2作では雰囲気の違う作品を書いてやろうと強い気持ちで挑みました。

 私はBiSHに入りたての頃から、「自分には何があるんだろう」と自問し続けてきました。他のメンバーは歌唱力があったり、表舞台に立つ経験を積んでいる子ばかりだったので、私には何もないなって毎日のように感じていて。でも、歌詞を褒められることが増えてきて、それがものすごく嬉しくて、「書くこと」で少しずつ自信をつけていきました。ただ、「書く人」を名乗るならば、絶対に小説を書かなくちゃという、強迫観念のようなものがあって。なので、解散直後に小説を発表することは、私にとってとても大事なことだったんです。「解散までに小説を書けなかったら、もう表舞台には立たない」という覚悟で向き合っていました。ずっとピストルをこめかみに突き付けられているような気持ちでしたね。

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 でも、急に指が止まってしまって書けなくなった時期もありました。「いいものを書かなきゃ」とか、「ファンがいるから書くことを許されているだけなんじゃないか」とか考えてしまって。私にとって、キーボード上の指先は自意識の塊なんですよね。

――『悪魔のコーラス』の帯には、窪美澄(くぼみすみ)さんからのコメントが寄せられていますね。

モモコ もともと窪美澄さんの小説が大好きだったので、帯文をお願いしたいと思って、手紙を書いたんです。そしたら、とても嬉しいお返事を頂けて。書いてもいいんだよ、と背中を押されたような気がしました。

 書きたいこと、まだまだたくさんあります。書きたいことが溢れ出してしまって、全てをひとつの作品に入れがちなんですよね。良い作品にするためには、きちんと削ることも課題のひとつだと思っています。

 私は村上春樹(むらかみはるき)さんの作品が大好きで、憧れるあまり、第1作の初稿はつらつらと長い文章が多かったんです。そうしたら、編集者さんから「トル」ってばっさり指摘が入って(笑)。めっちゃ頑張ったところなのに! と最初は少し落ち込みましたが、今はどうしたら贅肉(ぜいにく)のない文章を書けるか模索しています。

 私自身が色々な小説に救われてきたので、一筋の光が見えるような作品を書いていきたいですね。

©文藝春秋

 

――BiSHの頃も、今も、常にどこかに向かって大変な努力を重ねられています。その原動力はどこからくるのでしょうか。

モモコ BiSHに入りたての頃、私は歌もダンスも本当に下手だったんです。リハのあと、私一人だけがステージに残されて、メンバーやスタッフさんからお説教をされることもありました。テレビ出演のとき、私だけ歌のパートがなくて、声の入らないマイクを持ってステージに立ったこともあります。

 そんなときは辛くて、ふがいなくて、泣きそうになったけれど、実際にできていないのだから、指摘を受けるのは当たり前のことだとも思っていました。そこでただ泣くのは逃げだと思ったし、泣きたくなるということは、私は悔しいんだな、それならまだ頑張れるじゃん、と思ってがむしゃらに走ってきました。頑張っている自分のことは、信用できるんですよ。これからも、自分の色や感情をしっかり見つめながら歩んでいきたいと思っています。

©文藝春秋

撮影:榎本麻美
スタイリング:大瀧彩乃
ヘアメイク:澤西由美花

《プロフィール》

モモコグミカンパニー/2015年、“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバーとして活動を開始。16年にメジャーデビューを果たすと、大ヒット曲を連発して各メディアで活躍を続ける。18年にエッセイ集『目を合わせるということ』、20年に『きみが夢にでてきたよ』を刊行。22年、『御伽の国のみくる』で小説家デビュー。23年のBiSH解散とともに作家活動を本格化させ、同年『悪魔のコーラス』を刊行。24年2月に解散までの記録を書いた『解散ノート』上梓。

解散ノート

モモコグミカンパニー

文藝春秋

2024年2月14日 発売

「恥ずかしいこともたくさん書いてある」――モモコグミカンパニーが『解散ノート』に綴った本当の気持ち

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