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「正論」が好きな韓国社会

 それとともに、女性だけでなく広く社会に支持されたことは、韓国人の社会意識のありようにも関係がある。基本的に、韓国人は正論が好きだし、正論を冷笑・揶揄したり、茶化したりするような風潮は強くない(反発するときは真っ向から反発する)。

 このような大ベストセラーは、「みんなが読んでるから読まなくちゃ」という人々の意識なしには成り立たないものだが、この本の場合、「みんなが面白いと言うから」より、「みんながこれを正しい、読むべきだと言うから」という意識の方が強かったのではないか。『82年生まれ、キム・ジヨン』が「女の子の父親の必読書」と言われたり、男性の国会議員が自腹で300冊購入し、メッセージとともに全議員に配ったり、企業の人権セミナーで教科書的な使われ方もしているという話を聞くにつけ、そう思う。

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 一方で、いわば優等生的な意見が大手を振ってまかり通るので、小声の意見が屈折してネット上にたまりやすいのかもしれない。そして「逆差別だ」と怒る男性たちに対して、アマゾンにレビューを書き込んだ韓国女性はまた正論を返す。「勿論男性も男性ならではの苦痛があるとは思います。なら訴えかければいいだけです。(中略)そんなことがあったのか、自分たちもこのような苦痛があったと話し合い理解しあえばいいだけです」。

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日本人男性からは「母のことを考えて泣いてしまった」

 日本では現時点で、本書への男性からの反発はほとんどない。ツイッターで見る限り、「自分は何もわかっていなかった」「これは男が読むべきだ」といった声しか見当たらないし、中には「母のことを考えて泣いてしまった」という意見もあった。

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 彼らは、「この本がベストセラーになる韓国がうらやましい」という日本女性たちの声をどう考えているのだろう。また、「自分たちもこのような苦痛があったと話し合い理解しあえばいい」という韓国女性の声をどう聞くだろう。私は、『82年生まれ、キム・ジヨン』は「使う本」だと考えている。「これが論議のきっかけになれば」という言葉がお茶を濁すために使われることも多々あるが、この本は、まさにそれがぴったりあてはまると思う。先日、都内の書店で行われた本書をめぐる倉本さおりさんと私とのトークイベントでは、和気藹々とした雰囲気の中で参加者が活発に発言し、男性の意見も続いた。

 果たして、隣国のベストセラーがもたらした波紋は、性差や世代を横断した話し合いの土台を提供することができるだろうか。文字通り、固唾を飲んで見守っているところだ。今のところ、韓国人の星1つレビュアーが憂慮したような、「男女間の葛藤」をあおる材料にはなっていないようなのだが。