いまから80年前のきょう、1937年6月3日、フランスのカンデ城で結婚式が行なわれた。新婦はウォリス・シンプソンというアメリカ人女性、そして新郎はウィンザー公エドワード……前イギリス国王のエドワード8世その人であった。

 エドワードはその前年、1936年1月に、父王ジョージ5世の死去にともない国王に即位する。皇太子時代よりプレイボーイとして知られたエドワードが、夫のある身だったウォリスと交際を始めたのはその数年前のこと。即位後には、彼女を妃に迎えるべくあれこれと画策した。ついにはエドワード自ら彼女の夫に働きかけ、ウォリスの離婚が成立する。彼女にとっては2度目の離婚であった。だが、このことが2人の結婚を阻む。イギリス国教会では離婚は許されないことであり、同教会の首長でもある国王が離婚経験者と結婚するなど言語道断の、背徳的行為とされたからだ。

 教会、そして当時のイギリス首相ボールドウィンも「結婚を強行するなら退位以外にない」と強硬姿勢を示した。それに抗えないと知ると、エドワードはとうとう王冠を捨て、恋を貫く道を選択する。退位宣言に署名したのは1936年12月、即位からわずか1年足らずのことだった。代わってエドワードの弟ヨーク公が即位、ジョージ6世となる。現在のエリザベス女王の父である。

ADVERTISEMENT

男は王冠を捨てた…禁断の恋を乗り越えて結ばれた2人 ©getty

 エドワードは1972年に亡くなるまで、ウォリスと幸せな結婚生活を送った。だが、イギリス国教会の首長たる国王が離婚経験者と結婚することは望ましくないとの考えは、以後もイギリス王室に根強く残る。チャールズ皇太子が離婚したダイアナ元妃の死後、2005年に同じく離婚経験者であるカミラ夫人と再婚したときも、宗教儀礼を排した形で結婚式を挙げざるをえなかった。