「車の使用を控えろ!」と叫ぶ人はいないが……
感染者がどんどん累積して、入院する人や重症者が増えていけば、ふたたび医療機関も逼迫してくるでしょう。軽症者や無症状者が多いとしても、療養用の宿泊施設の確保が大変です。ですから気を引き締めて、社会が一丸となって感染拡大阻止に動かねばならないのは当然のことです。
ただ、毎日のように交通事故で貴い命が失われ、事故による障害や後遺症に苦しむ人が出ていても、「車の使用を控えろ!」と叫ぶ人は誰もいません。現代社会では車がなければ生活が成り立たないので、一定の確率でリスクが生じることを、みんなが無意識のうちに許容しているのです。
このまま感染が拡大すれば、日本とは桁違いに感染者が多い欧米諸国などのように、コロナによる死亡者数が交通事故のそれを超えてしまう可能性も否定はできません。ですが、本当に死亡者数がどんどん増えていくのか、それとも現状の低水準で推移するのか、誰も確実なことは言えません。
にもかかわらず、新型コロナのリスクから人びとを守るために、観光地の旅館、ホテル、土産物屋、飲食店等の人たち、旅行代理店、観光バス会社、鉄道会社、航空会社、船舶会社等々、観光業に携わる多くの人たちが、すでに何ヵ月も苦境を強いられ、耐え忍び続けているのです。
旅行業者は「壊滅的」な状況に陥っている
観光庁の調査によると、日本人の国内旅行・海外旅行・訪日外国人旅行などを合わせた2019年の旅行消費額は、なんと27.9兆円にも及ぶそうです(観光庁「旅行・観光消費動向調査」2019年年間値)。しかし、新型コロナの影響によって、主要旅行業者47社の今年5月の総取扱額は、前年同月比で97.6%も減少しています(観光庁「主要旅行業者の旅行取扱状況速報」令和2年5月分)。「壊滅的」と言っていい状況です。
また、2016年の観光業の就業者数は243万人、雇用効果は459万人と推計されています(日本旅行業協会「数字が語る旅行業2019」)。しかし、今年5月の「宿泊業・飲食サービス業」の就業者は前年同月比マイナス9.2%で、38万人も減少しています(総務省統計局「労働力調査」2020年5月分)。
このままいけば、観光業に従事する人たちが、どんどん職を失うのは目に見えています。当然のことながら、観光業に携わる人たちにも生活があり、家族があり、命があります。Go Toトラベルの延期や中止を主張した人たちは、そのことに想像が及んでいたでしょうか。