「とにかく、Go Toトラベルをやってくれなきゃ困るというのが、我々の業界の本音です。前年比98%減という状態が、何ヵ月も続いてますから。体力のない中小の会社では、すでに倒産したところも出ています。このまま延期になれば、観光業は焼け野原でしょう」
東京都の新型コロナ陽性者が急増し、地方の知事や野党議員を中心に観光支援事業「Go Toトラベル」の中止や延期を求める声が高まった7月16日、旅行代理店の役員を務める知人は筆者にこう話してくれました。
結局、翌17日に政府は「東京発着の旅行」をGo Toトラベルの対象から外すと発表。さらに記者会見で赤羽国交大臣が「重症化しやすい高齢者」「若者の団体旅行」「宴会を伴う場合」も利用を控えてほしいと、除外措置の追加を表明しました。
この日、東京都の陽性者は過去最高の293人となりました。連休や夏休みに入り、Go Toトラベルで都内の大勢の人が全国に散らばれば、各地に感染が飛び火する可能性は高いでしょう。ですから、「感染者が増えている今、なぜ政府が感染拡大の後押しをするのか」と憤る気持ちも理解できます。
現時点での死亡リスクは交通事故より低い
しかし、Go Toトラベルに反発した人たちは、拳を振り上げる前に少し冷静に考えるべきではなかったかと私は思います。なぜなら、6月に入って再び感染が拡大しているのは確かですが、4月~5月に緊急事態宣言が発令された頃と違って、死亡者が増加しているわけではないからです。
7月18日時点で、新型コロナウイルスによる日本人の死亡者数は984人です。しかも、7月に入ってから新規の死亡者数は1日あたり0~2人という低い水準で推移しており、東京では15日に死者(90代男性)が1人出るまで、6月25日~7月14日までの約3週間、ずっと0人が続いていました。
一方、今年の全国の交通事故の死亡者数は5月末までに、すでに1155人を数えています(6月末までの死亡者数は未発表)。1日あたり7~8人が交通事故で命を落としている計算です。つまり、あくまで「現時点では」ですが、新型コロナに感染して死亡するリスクは、交通事故の死亡リスクよりも低いのです。
もちろん、だからといって新型コロナを侮っていいわけではありません。6月に入ってから増えている感染者は、死亡リスクの低い若い人が6~7割を占めています。そこから高齢者や持病のある人などリスクの高い人にまで感染が広がれば、当然、重症者や死亡者が増えることは予想されます。