御年90歳の職人が滝ケ原唯一の石彫り工房を守る

 石材彫刻に携わって60年を超える滝ケ原地区の石材彫刻師・中谷篁(なかやたかむら)さんが運営する工房も、小松市の石文化を支える一つの取り組みだ。中谷さんは、手仕事で石を彫り続ける県内でも数少ない石工の一人で、平成23年(2011年)には「ふるさとの匠」に認定されたほどの腕前の持ち主。

貴重な経験を話してくれた中谷さん ©文藝春秋

 そんな職人の指導のもと、石彫り体験ができる。今回は実際に中谷さんが石を彫っているところを見せてもらった。黙々と、一心不乱にノミを打ち続ける手さばきはまさしく職人技。石を彫っていると「石の声が聞こえてくることがある」という。長年石に向き合い続けてきたからこそ出てくる言葉だろう。中谷さんが加工した石は、墓碑や温泉の湯縁、置物など、さまざまなシーンで活用されている。

 2021年11月には、全国104の日本遺産ストーリーが石川県小松市に集結して、「日本遺産サミットin小松」が開催される。現在、日本遺産は104地域が認定を受けており、「小松の珠玉の石文化」もその一つだ。日本遺産サミットは、年に一度、全国で認定を受けている日本遺産の保有自治体が一堂に会する。

取材日は墓碑を製作中だった ©文藝春秋
ノミを打つ「玄翁(げんのう)」という道具。長年使われたことで打撃部分には手になじむよう凹みができている ©文藝春秋
90歳とは思えない惚れ惚れする手の動き ©文藝春秋

石文化は若い世代にも受け継がれている

 こうした石工以外にも、市の建造物や石橋など、石を利用した施設が小松市には多い。なかでも特徴的なのが築100年の古民家を改装したゲストハウス「TAKIGAHARA CRAFT&STAY」(企画運営:NPO法人ファーマーズマーケットアソシエイション)だ。

ワーケーションの利用にも最適な「TAKIGAHARA CRAFT&STAY」 ©文藝春秋

 モダンなセンスが光るゲストハウスでも、滝ケ原地区で採られた石が実用・意匠の両面でふんだんに使用されている。古くから続く小松市で採掘されている石が新たな世代に継承されている事実は、小松市に石にまつわる文化がしっかりと根付いている証拠といえる。

車窓から発見した石切場跡。バーミヤン洞窟を想起させる外観だ ©文藝春秋

 移動中の車内からも、当たり前のように石切場が目に入ってくる。小松市が絶景石切場の遍在する地域だということを改めて痛感させられた。

写真=深野未季/文藝春秋

協力:小松市