通常立ち入り禁止の坑道に突入!

 続いて向かったのは滝ケ原地区にある「本山石切場」。文政時代(1818~1830年)から採掘が始まり、現在に至るまで良質の石が産出され続ける石切場である。

人が通れる箇所はすべて採掘の行われた跡 ©文藝春秋

 数々の石切場がある滝ケ原地区でも、いまもなお現役なのはここだけ。

 先ほど紹介した観音下石切場は山に対して垂直方向に採掘を行うが、本山石切場では、山に対して水平方向に採掘を行う「坑道掘り」という方法をとっている。階段状に石を切り取ることで先の方までスムーズに採掘できるのだという。

手掘りした跡の残る石壁にはツルハシによる模様が美しく浮かび上がる ©文藝春秋
機械彫りの跡はジオメトリック ©文藝春秋

掘削は危険と隣り合わせだった

 掘り始めの頃は職人の経験だけをもとに、崩落の危険を予測し、手作業で採掘を行っていた。そのせいもあってか、緩い地盤が崩れてきたこともあるという。

 現在掘っている坑道は、隣に位置するかつて掘った坑道の表面を子細に観察し、クラック(亀裂)や上部の地盤の色・方向を見極めることで安全に掘削を行っている。オットー・フォン・ビスマルクの「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」ではないが、この地で石切を続けてきた歴史が、現在の安全な掘削を可能にしているといえるだろう。

※本山石切場も見学には事前の予約が必要。「里山自然学校こまつ滝ケ原」が見学コースを受け付けている。

ゲームのダンジョンのような入り口 ©文藝春秋
ヒンヤリとした空気の坑道内 ©文藝春秋

「採掘の機械化、コンクリートの普及による需要の変化など、さまざまな理由で石の需要全体は減少しているものの、いまだに重要な建造物では建材として石が重宝されている」

 そう教えてくれたのは地域の体験型観光ガイドを務め、石彫アーティストとしても活躍される舟津秀一郎(ふなつしゅういちろう)さん。

 コンクリートに比べ、はるかに長い寿命を持つ石が活用されるケースはまだまだ多いのだという。

「例えば奈良県の古墳修復や北陸新幹線の橋脚のために本山石切場の石材が使用されています。そういった大きな事だけでなくても、いろんな場所で石材は活用されてるんです。小松市が誇る“石文化”を知ってもらうためにも、石がどのように使われているのか知らない方、建材としての石の魅力を知らない方に向けて情報を発信することも私たちの仕事ですね」