「旅」とは、普段の生活では体験できないことができるもの。そんな「旅」において「絶景」を目当てにする人は少なくないだろう。豊かな自然が残される日本には数々の絶景スポットがあり、現に国内外から日々多くの観光客が各地を訪れている。
四季折々で姿を変える美しい山々、ゆるやかにせせらぐ川、日光によってきらめく雄大な海…観光で目の当たりにした美しい光景に心震える思いをしたという経験を持つ人が少なくないことは想像に易い。
しかし、今回紹介したいのは、いわゆる「観光」化されたスポットとは少々違う。“オツ”な趣味人たちの間で注目を集める「石切場」である。
日本では、古来からさまざまな建築に石材が活用されてきて、各地に数多くの石切場が存在する。そんな中でも、“時の流れの中で磨き上げてきた石文化”が評価され、2016年4月に日本遺産認定を受けた石川県小松市は石文化、ひいては石切場の絶景を味わうのに絶好のエリア。
そう広くない地域内に“ヤバい”石切場が遍在している。
高さ50m以上の巨壁がそびえる圧巻の光景
そもそも石川県という地名は、県内を流れる手取川に石が多かったことに由来する(諸説あり)。それだけ石にゆかりのある土地なのだ。
そんな石川県小松市の国道416号線を北上した場所にある西尾地区に残されているのが、大正時代から山壁に沿って採掘を続けられた高さ50m以上の巨壁。小松市を代表する「観音下石(かながそいし)」の石切場跡だ。その巨大さは「圧巻!」の一言。
※見学は、かなんぼカフェ内「観音下石の保存会」(090-2126-7834[受付時間 10:00~17:00])へ事前の予約が必要。
国会議事堂にも使用されている石材が採掘される
眼前に立ちはだかるすさまじい光景もさることながら、ここで採掘された石材は、機能の面でも非常に優秀。軽量でカビにくく湿気・熱にも強い特徴を持ち、国会議事堂2階廊下の壁・柱や甲子園会館など、日本有数の建築物に「観音下石」は使用されている。地域で起こった大火事の際も、観音下石でつくられた建物は延焼しなかったため、石材としての価値がさらに高まったそうだ。
この場で採掘した労働者の姿を思いながら残された巨壁を眺めていると、土木工事の“凄み”を感じずにはいられない。また、手仕事と自然が互いに影響を及ぼし合ってできた絶景は、それ自体がまるで一つの工芸品のようですらある。