処理した臭気がぶり返す「臭い戻り」
――“臭い”は大きな問題のひとつなんですね。
花原 はい。臭いの元を根本から除去せずに単なる消臭作業で済ませてしまうと、時間が経ってから再び臭い出す、「臭い戻り」を引き起こすことがあります。特殊清掃ができる清掃会社は通常そんなミスを犯さないのですが、一般の清掃会社が事故物件の清掃をしてしまうと起こりがちな現象です。
近年でそうした事例が増えているのは、付き合いのあるオーナーから事故物件の清掃を相談された一般清掃会社が、つい断れず通常清掃の延長線上で引き受けてしまうからでしょう。当社にご相談にいらっしゃるお客様のなかには、一度清掃を入れたつもりが「臭い戻り」してしまって、改めて特殊清掃を依頼しにくる方もいるくらいなんです。「臭い戻り」を防ぐためには、体液が床下のどこまで浸食しているかを正確に把握することが必要です。と言ってもそれは特殊清掃を生業としている業者からしたら難しい作業ではありません。
最も大変なのは近隣住民への配慮。そもそも、現場から漏れ出た臭いで、住人が亡くなっていることに近隣の方が気づくというケースがほとんどなんです。近くで死亡事故が起きた事実だけでも近隣住人からしたら耐えがたいのに、亡くなられた方と知り合いだったなんて場合には一層ナイーブな気持ちになるでしょう。そのため、換気扇などの隙間から漏れ出る臭いをすみやかに封じたり、汚れを新たに出さないようにするなど、最大限の配慮を施しますね。
――実際に特殊清掃時に苦労したのはどのような案件でしょうか。
花原 例えば、都内の70代男性が孤独死してしまい、発覚まで3か月かかった物件。その案件では、清掃前の遺体の体液が広がる部屋を他の方が踏み荒らしてしまったんです。すると靴の裏についた体液は家中に広がりますし、家財を動かすだけでも臭いは移ってしまいます。結果として物件を再生させる範囲が増えることになるんです。発覚時のままの状態ならば清掃範囲を最小限に留められます。素人の方が室内で作業されると、のちのち苦労します。
また、臭いが深く部屋に染み込むと、壁紙はおろかその裏にある石こうボードも剥がさざるを得ないケースも。もちろん何も問題がなければそのまま残しますが、壁も天井も総取り換えしないといけない場合も珍しくありません。そもそも事故物件となるのは古い居宅が多いので、水回りなど古めかしくて生活感が残っている箇所があれば、通常のリフォームと同じ要領で取り換えます。
そして当社では、独自に「成仏認定書」というものを発行しています。事故物件を扱うプロが的確に再生処理した証として、特殊清掃とお祓い・ご供養を行った物件に対して出しているんです。これがあるから安心して購入できるといったお客様の声をいただくこともあります。多くのお客様が安心できるように形として出しているのが「成仏認定書」というわけです。
【後編に続く 家族が床下に埋められた戸建は5割程度下落… 大手ハウスメーカー会社員が‟事故物件”専門会社を立ち上げたワケ】
(文=二階堂銀河/A4studio)