ある恩人がいなければ、日本代表に選ばれることもなかったかもしれない。侍ジャパンの東京五輪初戦を目前に控えた今、広島・栗林良吏投手(25)の成長を語る上で欠かせない戦友との2年間を書いておきたい。

栗林良吏

再びプロ野球選手を志すきっかけになった同期の言葉

 栗林は名城大4年時の18年ドラフト会議で指名漏れし、社会人野球の名門であるトヨタ自動車に入社した。「トヨタにせっかく拾ってもらったのだから、しっかり活躍して会社に貢献したいという気持ちだった」。つまり、プロ野球選手になる夢を諦めるつもりで社会人になった。

 同期入社の選手5人の中にいたのが、明大から入社した外野手の逢澤崚介である。大学日本代表では、栗林とともにプレーした間柄。加えて、ドラフトで指名漏れを経験して社会人野球を選択したという点でも同じだった。

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 栗林と違ったのは、逢澤はプロ入りを目標に入社したということ。一緒にプロを目指せると思っていただけに、栗林が夢を諦めようとしていることに驚いた。そして、栗林の実力を知る一人として、彼の思いを受け入れることもできなかった。だから、逢澤は簡潔に一言だけ伝えた。

「2年後、一緒に見返そうよ」

 この言葉は、栗林が再びプロ野球選手を志すきっかけの一つになった。そして、2人同時にプロ入りすることがお互いの目標となった。

 2人の練習量はチーム随一で、休日でも関係なく練習場を訪れた。両方ともが「向こうが一人で練習している以上は負けられない」と思っていたと言う。せっかく同じ場所にいるのなら、と次第に休日でも一緒に練習するようになった。

 休日の恒例となったのが屋内練習場で2人きりで対戦することである。栗林が投手役を務めて、逢澤は打席に立つ。打撃練習とはいえ、フォークやカーブなどの変化球を交えて真剣に投げ込んだ。2人の絆は深く、栗林は逢澤に「俺ら2人でトヨタを勝たせよう」と伝えた。入社2年目には、栗林がエース、逢澤も主力としてチームをけん引するまでに成長した。