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リーダーを育てたい四谷大塚、制度の変化を捉えた日能研、勉強のスタイルを変えたサピックス…「中学受験“塾”戦争」の実態に迫る

『なぜ中学受験するのか?』より

note

 以降、約30年間、首都圏の中学受験業界の構造は基本的に変わっていない。

中学入試の競争はむしろ緩和している

 昨今、いわゆる「教育虐待」が注目されたこともあり、「中学受験者数は年々増加しており、競争が激化している」とメディアは煽るが、これは偏向報道である。

首都圏の中学受験の歴史 『なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)より

 たしかにここ数年、中学受験者数は増加傾向にある。そして2021年、コロナ禍での首都圏の中学受験者数は5万人を超えた。しかしこれはようやく2007年の水準に戻っただけだし、さらにいえば、1990年代初頭にはすでに首都圏の中学受験者数は5万人を超えていた。

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 中学受験者数は、景気動向と密接にリンクしている。バブル景気崩壊、山一證券や北海道拓殖銀行の破綻、リーマン・ショックなどに象徴される経済状況の悪化を受け、そのたびに中学受験者数が落ち込んでは回復するのをくり返しているだけだ。

なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)

 しかも1980年代半ばには首都圏の私立中高一貫校は約200校だったが、現在では約300校に増えている。中学入試の競争率は総じて言えばむしろ緩和しているのである。

 実際、2019年までの全体合格率は100パーセントを超えており、全入時代だった。えり好みしなければどこかには入れた。2020年および2021年には100パーセントを割り込んだが、女子に限ればまだ全入だ。

 一部で中学受験が過激化していることは私も否定しないし、実際に中学受験を背景にした教育虐待も起きている。しかし悪いのはやり方であって、中学受験そのものではない。

「予習シリーズ」の醍醐味

 1980年代まで、四谷大塚の「予習シリーズ」というテキストが、中学受験勉強の絶対的な王道だった。「日曜テスト」が行われる「日曜教室」に向けての予習を各自行うコンセプトだ。

 実際には四谷大塚の準拠塾で「予習シリーズ」を使ってテスト対策を行うのだが、準拠塾の授業の前に、テキストの内容を十分に読み込み、事前に練習問題を解いておくことが求められていた。