絵伝という共通の出どころがあるからか、たいていの造形には共通した「らしさ」が見てとれるのがおもしろい。こうした絵伝や造形物によって、文字が読めない人たちにも聖徳太子のありがたさがありありと伝わり、崇敬の念は高まり続けたのだと想像できる。
聖徳太子の息吹が感じられる
出品作には、聖徳太子の息吹を直接感じられるような逸品も多々あって、たびたび息を呑むこととなる。
「太子伝来七種の宝物」のひとつで、太子が所持していたとされる国宝《七星剣》は、反りのほとんどない直刀で、北斗七星を金象嵌してある。仮に謂われを知らずともこれを目の前にすれば、きっと畏れの念を抱くに違いない緊張感がみなぎっている。
593年に聖徳太子が建立した日本最古の官寺、大阪・四天王寺に伝わる名品の数々にも見入ってしまう。寺内から発見された《四天王寺縁起(根本本)》は、奥書に太子がみずから書写したとあり、その証として紙面に手形がいくつも捺されているのが見てとれる。これが聖徳太子の手形かと思えば、一挙にありがたい気持ちが湧いてくるではないか。
平安時代につくられた国宝《扇面法華経冊子》も見目鮮やか。豪華な装飾の上に下絵が施され、そこに経文が書かれている。美しさと信仰がごく自然に同居しているところに、日本文化の特質が垣間見える。
現代になるとたびたび紙幣の図柄に採用されたり、山岸凉子による漫画作品『日出処の天子』が人気を博したりと、聖徳太子の人気はいまだ衰え知らず。後世に魅力や逸話が「盛られた」面はもちろんあろうけれど、それもまずはご本人の輝きがあってこそに違いない。
そう強く肩入れしたくなるほどに、展示を巡り終えると、聖徳太子が身近に感じられるようになるのであった。