暮らしのなかの美を見直し、礼賛しよう。そんなテーマのもと企画された展覧会が幕を開けた。東京国立近代美術館での「柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年」。
1920年代に生まれた「民藝」
柳宗悦とは、もともと宗教哲学を専門とする思想家だった。若くして志賀直哉らの文芸誌『白樺』同人となり、『陶磁器の美』を著すなど工芸品への関心を早くから示した。
そんな彼が提唱し始めた美の概念、それが民藝だった。土地に根ざして生きる無名の人々の手で為された仕事に美しさと価値を見出し、それらを通して生活や社会を豊かにしていこうとの思想だ。
柳が志を同じくする陶芸家の濱田庄司、河井寛次郎とともに想を練り、「民衆的工藝」を略して「民藝」を造語し世に問うたのは、1925年のこと。
彼らは民藝の概念を広めるべく、作品蒐集や展覧会・出版活動を展開し、ゆくゆくは美術館設立へ結びつける計画を立てた。その説くところは全国で賛同者を得て、やがて文化的なうねりとなっていく。
いまも郷土色の強い手作りの日用品やおみやげのことを民芸品と呼んで、愛好する人は多い。あのジャンルは、柳らの活動に端を発しているわけだ。
大まかにまとめれば「一般の民衆が日々生活に必要とするもの」が民藝の定義となる。片や美術品は多くの場合「特定の個人が、真似のできない発想や技量を用いてつくった、特別なもの」と考えられるから、民藝は美術の概念と反対の位置にあるように見える。
それでこれまでは、美術館で大々的に民藝が取り上げられることは少なかった。けれど民藝だってもともとは、「何が美しいか」を真摯に問うところから始まった運動。提唱されておよそ百年が経とうといういま、改めて柳宗悦らの思考と実践を辿ろうと、東京国立近代美術館の大空間が用意されたのである。