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選手一人一人が起業家精神をもっているチーム作り

鈴木 佐々木さんは『起業のすすめ』の中で、「会社の中にも起業家は存在する」と書かれていました。僕はまさに、そういう現場を目撃していたと思います。これは推測ですけど、落合さんはアントレプレナー的な精神から、選手たちに「自分のために野球をやりなさい」と言っていたんです。サインを出していないのに進塁打を打った選手に、「ホームランを打て。チームのことなんて考えなくていい。勝たせるのはこっちの仕事だ」と怒ったこともあります。

佐々木 和田一浩選手が、西武から移籍してきた年でしたね。

鈴木 そうです。団体競技なのでチームプレーをしないといけないのですが、一人一人の選手が起業家精神をもっているチームを作ろうとしていたのかもしれません。佐々木さんは「お金によって得られる自由」についても書かれています。落合さんは選手に「自分の給料を上げなさい」とも言っていたので、『起業のすすめ』を読んで数々の疑問が、ああ、ビジネスで言えばこういうことなんだと腑に落ちました。当時は僕も会社に所属する記者だったので、よくわからなかったんです。

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佐々木 ビジネスパーソンの社会と、本当に同じですね。

©️文藝春秋

鈴木 佐々木さんが球団を買ったとして、落合さんを監督に呼びますか。

佐々木 落合さん流は、令和の時代には厳しいかもしれません。合理主義を貫くことは、中長期的に相手のための優しさになりますけど、今の日本ではその時間を耐え切れない気がします。周りからプレッシャーを受けるし、嫌われますからね。さらにいまの若者は、黙して語らずの厳しいリーダーを受け付けないでしょう。

本が出る前に報告したところ「おお、そうか」

鈴木 落合さんと選手たちはプロとプロの割り切った関係だったのに、2011年のシーズン終盤に退任が決まったあと、選手のほうから感情が滲み出てきました。落合さんが目指していた超合理主義とはまるで逆の、情に溢れた野球で勝ち始めるんです。

佐々木 4.5ゲーム差を逆転して、優勝したんですよね。

鈴木 象徴的だったのは、荒木雅博選手が、落合さんの禁止していたヘッドスライディングをした場面です。プロフェッショナルとはどういうものか学んできた荒木が、最後にボスの意に反して、自分がいいと思ったプレーを選択した。佐々木さんの本で言えば、あれはまさに荒木という選手が起業したというか、本当の意味でプロになった瞬間だったんだなと感じました。そして落合さんは、荒木を咎めませんでした。

佐々木 落合さんが幸福なのは、ご自分の「俺が本当に評価されるのは……俺が死んでからなんだろうな」という言葉と裏腹に、この本によって見直されたことでしょう。

鈴木 そんなことはないですよ(笑)。

佐々木 ご本人は、何か感想を寄せてこられましたか。

鈴木 落合さんは他人の仕事に何か言う方ではないので、どう思っているか、こちらが判断するしかありません。本が出る前に報告を差し上げたんですけど、「おお、そうか」。以上です。

佐々木 かっこいいですね。落合さんには、また何かやっていただきたいですね。

©️文藝春秋

(構成/石井謙一郎)

起業のすすめ さよなら、サラリーマン

佐々木 紀彦

文藝春秋

2021年10月26日 発売

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