個の強さと、嫌われる勇気と、結果を出す手腕
鈴木 ビジネスマンとしてなら、落合さんをどう評価されますか。
佐々木 私は『嫌われた監督』の推薦文に、「超合理主義という優しさ。本書の落合監督こそ、経営者の手本だ」と書かせていただきました。日本企業の経営者は情に流される人が多く、厳しい改革を貫き通して結果まで出した人がほとんどいません。落合さん的な個の強さと、嫌われる勇気と、結果を出す手腕があったら、再生請負人が務まるでしょう。いまなら、東芝の社長なんか向いてそうですね。プロに入る前は、東芝府中に在籍していましたし。
鈴木 僕は、阪神タイガースみたいな古い体質の名門球団で、落合さんのポリシーが通じるかどうかを見てみたいです。
佐々木 コミッショナーなどルールを決められる立場で、野球界全体を変えてもらうのも面白そうです。
鈴木 当時はあまり理解できなかったんですけど、大局観に基づく話もされていました。「なぜ1球団70人の選手しか支配下に置けないんだ。撤廃すればいいじゃないか」とか。
契約書1枚で生きるプロという仕事
佐々木 落合監督には、どの程度の権限があったんですか。
鈴木 落合さんを監督にした白井文吾オーナー(当時)は、ほぼ全権を与えていました。編成もかなり任されていて、この成績の選手なら年俸はいくらになるというところまで考えていました。余談ですが、落合さんは数字に強いそうです。毎年の確定申告の前に税理士さんが資料を見せて説明するらしいですけど、パッと見て「ここ、ちょっと違うぞ」と指摘したこともあったとか。
佐々木 それはすごい。
鈴木 能力に見合うだけの権限を与えられていたように思います。ただし親会社で派閥争いが起きて球団社長が交代すると、首を挿げ替えられてしまいました。2011年のリーグ優勝を争っている最中に退任が決まった理由の1つは、そこにあったと思います。
佐々木 契約書1枚で生きるプロという仕事を突き詰めた象徴が、落合さんだと思うんです。上に立つ球団社長も、周りで取材する番記者たちも典型的な昭和サラリーマンである中に、アントレプレナーというかプロとして監督や選手たちがいる。その構図が、日本のスポーツ界の矛盾を生んでいる気がしてなりません。中田英寿さんがメディアに冷たかったのも、「自分たちはプロで、来年どうなるかわからない立場でやっているのに、みんな安全地帯から石を投げまくってくる」と怒っていたからではないでしょうか。