美食家で知られた作家・立原正秋の絶筆となった作品に、朝刊を読んだ主人公の男性が寝床を飛び出してくる場面がある。

「寝ていられるか、寒鰤が上がったというのに」

 初水揚げの寒鰤は、彼にとってそれほどの佳肴。刺身で楽しみ、焼いて賞め、煮て味わいと、存分に腕を振るい、堪能するのだ。

 そんな一節を思い浮かべつつ、富山が誇る「ひみ寒ぶり」と鹿児島が誇る「薩州 赤兎馬」を師走の膳に並べることとしよう。焼酎蔵 薩州濵田屋伝兵衛が醸す「赤兎馬」は、シャープな飲み口の中に芋の風味がフルーティに香る、淡麗かつ芳醇な芋焼酎。この味わいに、こっくりと煮た鰤大根を合わせる算段だ。

本格芋焼酎
薩州 赤兎馬
本格芋焼酎
薩州 赤兎馬

 小説の中では鰤の頭と大根を何時間も煮込んでいるが、今宵のレシピは、手に入りやすい鰤の切り身を使い、手早く仕上げる「焼き鰤大根」。大根は薄すぎず厚すぎずといった輪切りにし、油を引いたフライパンで両面をこんがり焼く。そこに鰤を加えて焼き目をつけ、そのまま煮込んでいくだけだ。

 ポイントは、鰤が硬くならないよう先に取り出し、大根が煮えてから戻すこと。とはいえ、これでは今ひとつ味に深みが出ない。そこでもう一つの秘訣がある。隠し味として鹿児島産の黒酢少量、煮汁に加えるのだ。これでグッとコクが生まれ、魚臭さも抑えられるというわけだ。

 さぁ、後は「赤兎馬」とともに味わうだけだ。おすすめの飲み方は4対6のお湯割り。芋の香りが湯気とともにふんわり鼻をくすぐり、ほの甘い味わいが濃い目に煮つけた鰤大根の荒々しさをなだめてくれる。同じ薩摩者同士、黒酢との相性も申し分ない。ロックでも水割りでも美味な「赤兎馬」だが、こんな力強い料理には、やはりお湯割りの優しさがぴったりだ。

 残念ながら、件の主人公が寒鰤にどんな酒を合わせたのか、作品には詳しく書かれていない。彼が「赤兎馬」を知っていたとしたら……。いや、それ以上語るのは野暮というものだろう。

北方謙三 三国志「赤兎馬」書き下ろし

  赤兎馬は、伝説の馬である。もとは、前漢のころ西域から入れられた、汗血馬にあるのだろう。後漢の三国時代に、呂布という武将が乗った馬の名と伝えられている。私が書いた『三国志』という小説でも、赤兎馬は出てきて、呂布とともに生きる。ほとんど人間のような感情を見せる名馬で、そう描くことによって、呂布の性格も、激烈だが人間的なものになった。赤兎馬は固有名詞で、二代目に、関羽という高名な武将が乗った。

 

 私は、『三国志』を書いたころを思い出す。赤兎馬が出てくると、物語が一歩、二歩進展したものだった。馬なのに、登場人物の存在感を凌ぐような時さえあった。

 

 赤兎馬のファンもいて、私は女子高生から手紙を貰った。自転車を赤く塗ったという。冬の朝、冷たい風を切って自転車を漕ぎながら、赤兎がんばれ、もうすぐ駅だ、と声をあげていたのだという。その姿が想像できて、印象深い出来事として、いまも鮮明に思い出せる。あの女子高生も、いまは立派なお母さんになっているかもしれない。一度会って酒を酌み交わし、赤兎馬について、懐かしさに心をふるわせながら、語り合いたいなあ。

 

提供:濵田酒造株式会社 焼酎蔵 薩州濵田屋伝兵衛
https://www.sekitoba.co.jp/

飲酒は20歳から。飲酒運転は法律で禁じられています。飲酒は適量を。妊娠中や授乳中の飲酒はお控えください。

Illustration:Katsumi Yada
Design:Hidenori Sato
Edit&Text:Yuko Harigae(Giraffe)