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「……凄い。イメージ通り。事前に打ち合わせしたっけ?」

 打ち合わせが終わり、セントシティ10Fナチュガーデンで行われた公開収録イベント本番は、トークコーナーやプレゼントコーナーなど観覧者の皆さんとふれあいながら楽しく進んでいった。そして最後に私のミニライブが始まろうとしていた時だった。既にステージを下りていたはずの和田投手が、足早にステージに戻ってきたのだ。

 その手には白球が握られていた。

「『21』で勝った試合のウイニングボールです。ずっとコロナ禍で渡せなかったから」

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 私は、勝利日の日付と「“21”と共に」と綴られたそのボールを握りしめて『21』を歌った。コロナ禍のため、ずっとライブでファンの皆さんに届けたくても思うようにそれが叶わなかった歌でもある。そして舞台脇では和田投手も聴いてくれていた。

©冨永裕輔

 すべての想いが遂げられた気がした。歌い終わった瞬間から、私の心は新登場曲の制作へ向かっていた。

 それから数日間、東京で楽曲の制作に取り組んだ。

『21』を超える歌が書けるだろうか。それは容易いことではない。不安があったのも事実だ。しかし、『21』を超えようと思う必要はないことに気づいた。全く新しい、私らしい新曲を紡ぐのだ。和田投手からいただいた期待とイメージを胸に、ピアノに向かった。

 私自身、コロナ禍により音楽活動が難しい日々が続いていた。多くの人々が混迷や大きな変化を感じている時代。だが、私の歌はもともと暗闇に芽生える魂の叫びだった。私が音楽の道を歩み出したのは、10代の頃、居場所や将来を見失い、暗闇の中にいるような日々に射し込んだ一筋の光が“歌”だったからだ。歌に救われて、歌が夢になった。そして今、先が見えない閉塞感を感じるような時代に、希望となれるような強い光を放つ歌を歌いたい。それこそが私らしい歌だ。

 その瞬間、まさに光が射し込むように歌が舞い降りた。

“Oh Believes きっとできるはず 信じてる
 乗り越えてきたこと 経験した悲しみが
 光の糧となる 走り続けて”

 そして不思議なことだが、このフレーズを弾き語りしながら、私の耳には歌に寄り添うようなゴスペルのコーラスが聴こえていた。

 それは、この時代に生きる人々の叫びであるように感じられた。

 まずはこの歌い出しのサビを和田投手に聴いてもらいたいと思った。和田投手とのオンラインミーティングで、パソコンの画面に映る和田投手に向けて、ピアノ弾き語りで歌い上げた。

 歌い終えて、少しの沈黙のあと、和田投手が口を開いた。

「……凄い。イメージ通り。事前に打ち合わせしたっけ?」

 和田投手は驚きとともに、生まれたばかりの新曲の断片を大切に受け入れてくれた。それとともに、楽曲の全体の構成へのリクエストもいただいた。

「こういうことができるか分からないけど、バラード調のサビを聴かせたあとに、テンポアップして勢いを出したい」

©冨永裕輔

 オンラインミーティングを終えたあと、和田投手からメッセージが届いていた。

「益々シーズンが楽しみになったよ!」

 方向性が固まり、全体の制作を進めていくことになった。

 そしてこの楽曲でさらに和田投手を後押しすべく“あの方”とコラボするイメージが湧いていた。

 それは、私が所属していた早稲田大学アカペラサークルStreet Corner Symphonyの先輩にあたる、黒沢薫さん(ゴスペラーズ)だった。

 新登場曲のタイトルは『光』。和田投手の先発登板日がホームゲームといつ重なるのか、待ち遠しいところだ。新登場曲に込めた想いは、またいずれ。

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