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エンタメとドキュメンタリーは融合するか?

大島 ちょうど『ホームレス理事長』の話が出ましたが、この作品と違って、自分で言うのも変ですが『ラーメンヘッズ』はビンタのシーンのような“すごいもの”が撮れているわけではないんです。だから、この映画は見せ方の個性を出して作品化していこうと決めたんです。例えば、テレビじゃできないナレーションを作るとか。冒頭で「松戸という、これといって特徴のない街に……」って入るんですけど、これはNHKじゃ言えない(笑)。

土方 ラーメン屋の人たちが頭に巻いているハチマキについても……。

大島 「理解に苦しむハチマキを巻いて」(笑)。愛を持って、この人たち、ちょっと変でしょうということを表現していく映画にしようと思ったんです。

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『ラーメンヘッズ』より ©ネツゲン

佐々木 いわゆる弟子を頭ごなしに怒鳴りつけるようなラーメン屋のオヤジが出てくる映画じゃないですよね。でも、監督の観察眼で富田治というカリスマ店主の底知れぬ怖さが伝わってくるシーンもあって、「見せ方の工夫」が成功していると思いました。店で働く子に「○○君、ちょっと外行ってて」と、富田さんが静かに伝えるシーンをバサッ、バサッとジャンプカットで編集している場面とか。「あの怒られ方は一番されたくないわ~」と見入ってしまいました(笑)。

土方 僕もあの場面は怖かった(笑)。

佐々木 大島さんは『ラーメンヘッズ』を“エンターテインメント・ドキュメンタリー”と表現されてもいますよね。僕はこの言い方にとても共感していて、結局ドキュメンタリーって、定義自体が曖昧ですよね。だから、最近で言えばテレビ東京の『家、ついて行ってイイですか?』とか、テレビ朝日の『陸海空』のナスDこと友寄隆英さんのお仕事とかは、バラエティの衣をつけた歴としたドキュメンタリーだと思っています。

『ラーメンヘッズ』より ©ネツゲン

土方 いわゆる「ドキュメント・バラエティ」は、従来のドキュメンタリーから一番遠いところにあった笑いと合体させた発明だなって思います。

大島 僕はバラエティの衣を受け取るのが、あまり得意ではないので最近のものは見てませんけど、僕の世代で言えば『電波少年』はドキュメンタリーやってる人間にとっても認めざるを得ない、特別な番組でしたね。

ナスDは体を張ったドキュメンタリストですよ

佐々木 実は、ナスDって世間が思っている以上にドキュメンタリストだと思って尊敬しているんですよ。友寄さんの初期の仕事だと思いますが、よゐこの濱口さんがゴミ屋敷を片付ける3時間ぐらいの特番があるんです。そこで、ゴミの中から出てきた炊飯器のご飯を食べるシーンがあるんですけど、あれは最初「さすがに食えない」と言っていた濱口さんに、ナスDが自ら食べて見せて、それであのシーンを撮った、という裏話が……(笑)。

土方 その頃から、すでにナスD節が(笑)。

佐々木 『陸海空』でも顔がナス色になった回ばかり話題にされがちですけど、その前にアマゾンで頭の上を銃弾が飛び交うような危険なロケもしているし、無人島企画もまず自分が現地取材してリスク管理を徹底している。体を張ったドキュメンタリストですよ、ナスDは。僕はドキュメンタリーよりもむしろバラエティをよく見るんですが、演出や番組作りの姿勢を含め、学ぶことが断然多いです。

 

土方 あと、テレビの仕事をしているとどうしても数字が追いかけてきますよね。お二人はどれくらい視聴率を気にしますか?

大島 昔は視聴率、けっこう獲りたかったんですけど、だんだん自分が面白いものを作れるちょうどいい数字が見えてきたんです。なんとなく6%から8%間を目標にしているんですけど、10%を超えるものを求められるとちょっと自分の手に負えない派手目の演出をしなきゃならない。自分の演出方法を抑えなきゃならなくなってくる。じゃあ、別に俺じゃなくてもいいよなって。ただ、数字は考えずに自分の表現だけを追い求めるというのは、ちょっと違うだろうとは思っています。

土方 僕も数字は取れるに越したことはないし、いろんな人に見てもらったほうがいいというのは大前提としてあります。

土方さんの作品『ヤクザと憲法』より

佐々木 僕はお気楽と思われるかもしれませんが、毎回2桁台の数字を取りたいと思って作っているんですよ。でも、生涯でまだ2桁を取ったことがない(笑)。でも、有名タレントを使わなくても、魅力的な演出や構成で視聴者を釘付けにする番組は作れると思っているんですけどね。