伝説のテレビマン・小松純也が再び動き出した。

『ダウンタウンのごっつええ感じ』、『SMAP×SMAP』、『笑う犬』シリーズ(いずれもフジテレビ)などを手がけた90年代を代表するコントの演出家だ。

 そんな彼が昨年、Amazonプライム・ビデオの『ドキュメンタル』で、約11年ぶりに総合演出を務めたのだ。そして4月26日よりそのシーズン2が配信される。

ADVERTISEMENT

 この機会に『ドキュメンタル』のことはもちろん、これまでの仕事を振り返ってもらう180分の超ロングインタビューを敢行。それは90年代以降のテレビコント史といっても過言ではないものだった。まずは実験的な試みである『ドキュメンタル』の方法について伺った。

小松純也さん ©三宅史郎/文藝春秋

誰もが無料で見られる地上波ではできないこと

――フジテレビを代表するバラエティの演出家がAmazonのコンテンツに進出というニュースには驚かされました。まずは『ドキュメンタル』制作の経緯をお聞かせいただけますでしょうか?

小松 吉本さんから、「松本(人志)さんが温めている企画があるので、それをちょっとやってもらえませんか?」みたいなお話をいただいたんです。僕が会議に入った時は、すでに『ドキュメンタル』というタイトルも決まってましたし、ざっくりとしたルール、こういうことをやるんだっていう芯はもう松本さんの頭の中にありましたね。だから、僕はそれをどう具現化するか。打ち合わせを重ねながら作っていったという感じです。

(※『ドキュメンタル』は、松本人志からの招待状を受け取った10人の芸人が密閉された空間に集まり、そこで笑わせ合うというもの。笑わせる方法もタイミングも自由。トークでもボケでも、持ち込んだ小道具を使ってもいい「無法地帯」。制限時間6時間の中で、最後まで笑わなかった者が勝者となり賞金1000万円を獲得できるというルール。ただし、参加費は100万円だ)

――Amazonで配信というのは最初から決まっていたんですか?

小松 配信でというのは決まっていたと思います。有料配信ですから、前のめりで見ていただくもの。そういう状況で、いいものを作れるのはうれしいなと思いました。

――番組の冒頭で松本さんが、「一生懸命見てもらわないと伝わらない、相当客を選ぶ番組だと思う」ということを宣言されてましたよね。僕らが見ているテレビとはちょっと性質が違うと。

小松 そうですね。「お金を払ってでも見たい」と思えるものでなければ、有料コンテンツは成り立ちませんから。「ドキュメンタル」は芸人が各自100万円という身銭を切って出演するわけですが、そのリスクを背負ってる迫力が企画の1つのフックなんです。ある種キワキワなことを彼らが勇気を持ってやっているから、視聴者が身を乗り出していわば「観戦料」を払ってくれる。変な話、こういうことを誰もが無料で見られる地上波でやったら、あんまり数字が出ないんですよ。「ヤな感じがする」って言われておしまい。そこが地上波と有料配信の違いの一つだと思います。

©YD Creation2017

――小松さんが総合演出をやるのは久しぶりかなと思うんですが。

小松 演出は本当に久しぶりです。もう僕は演出しないって一時期決めてたので。2005年の『27時間テレビ』で総合演出をやったんですけど、それを最後に基本的にはやっていないです。

――それは何か理由があったんですか?

小松 当時38歳だったかな。たぶん、その時はもう、会いたい人には会えたし、やりたいことは全部やったと思ってたんです。本当にわがままに、好き勝手に自由にやらせてもらってましたから。

――それで今回演出を再開したのはなぜだったんですか?

小松 フジテレビではその後、編成をやったり、最終的には管理職をやって、それなりに頑張ってやってはいたんですけど、世の中や会社に対して自分の役立ち方として、マネジメントのほうがいいのか、制作のほうがいいのかと思った時に、やっぱり番組を作っていたいな、と思ったんです。一回引退したくせに、っていう感じですけど、そういう思いはどこかでずっとあったんですね。当時の上司が制作会社(共同テレビ)に行くというから、「じゃあ自分も行きたい」と手を挙げたんです。さすがに上司もビックリしてましたけど(笑)。