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犬の陰茎は一度入ったらなかなか抜けない…メスが嫌がっても交尾が続く"独自のロックオン式"という進化

source : 提携メディア

genre : ライフ, ライフスタイル

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ヤギと同じルーツを持つクジラ類も「一突き型交尾」

一方、クジラ類は海洋での生活を選択した結果、重力から解放され、体を大きくすることで、陸上の草食動物ほど天敵に怯える必要はなくなった。しかし、お互い泳ぎながら交尾したり、定期的に海面に浮上して呼吸をしたりしなければならない。こうした不便さを補うためか、クジラ類もこの一突き型交尾を継承し、陰茎の形も弾性線維型でS字状に体内に収まっている。外側に陰茎や精巣があれば、遊泳のとき邪魔になるというものであろう。

さらに、すべての哺乳類では陰茎は基部で二股に分かれ(陰茎脚)、骨盤の坐骨部に付着し、安定性と身体との連動を担っている。我々人間も同様、骨盤は上半身と下半身を連結させ、移動手段である四肢(人間では後ろ足)を駆動させるのにも役立っている。

クジラ類は進化の過程で後肢を退化させ、尾ビレに推進力を託して水中生活へ適応進化を遂げたため、後肢と骨盤の関係は消失してしまい、骨盤は遺残的な形状(棒状や三角形で、脊椎との繋がりはない)に変化した。

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しかし、哺乳類であり続けた結果、骨盤内臓と骨盤の関係は保持している。つまりオスに至っては、陰茎が遺残的な骨盤である「骨盤骨」に付着し、腸からの陰茎後引筋も存在している。じつは、この部分の肉眼解剖学的研究が私の東大時代の博士論文であり、クジラ類のオス・メスの生殖器と骨盤骨、周辺構造を解剖し、観察していた。

今になって多くの方に紹介できる機会に恵まれたことは、嬉しい限りである。

田島 木綿子(たじま・ゆうこ)
国立科学博物館動物研究部脊椎動物研究グループ研究主幹
1971年生まれ。日本獣医生命科学大学(旧日本獣医畜産大学)獣医学科卒業。学部時代にカナダのバンクーバーで出合った野生のオルカ(シャチ)に魅了され、海の哺乳類の研究者を志す。東京大学大学院農学生命科学研究科にて博士号(獣医学)取得後、同研究科特定研究員を経て、2005年からテキサス大学医学部とThe Marine Mammal Centerに在籍。2006年に国立科学博物館動物研究部支援研究員を経て現職。
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