7年前から、ずっと耳に残っている言葉がある。

「中島さん、メジャーリーグのファーストをよく見てください。みんな、守備がうまいですよ」

 筆者が一塁手の守備を軽んじた発言をすると、ロサンゼルス・ドジャースでスカウトを務めた小島圭市さんからたしなめられた。今年この言葉をよく思い出すのは、昨年ロサンゼルス・エンゼルスでメジャーデビューを飾り、今季西武に加入したデビッド・マキノンのファーストの守備に惚れ惚れとさせられているからだ。

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マキノン ©時事通信社

 一部のファンから「忍者」と言われるほど、華麗な身のこなしだ。その象徴が7月25日、ロッテ戦でグレゴリー・ポランコが一二塁間に放った弾丸ライナーに対し、鋭い反応でグラブに収めたプレーだった。

「Just like my goalkeeper days in college(大学でGKをやっていた頃のようだ)」

 西武の公式アカウントがX(旧Twitter)にプレー動画を投稿すると、マキノンは上記のリプライをした。


 本人が言うように、一塁手のマキノンはサッカーゴールに立ちはだかる“守護神”のように見える。強烈なライナーに飛びついて止めたかと思えば、内野手の少し逸れた送球を巧みに反応して拾い上げるのだ。少し前なら川口能活(元横浜F・マリノスなど)、今ならミッチェル・ランゲラック(名古屋グランパス)のような反射神経である。

 実際、マキノンはGKの過去を持つ。幼稚園の頃にサッカーを始め、中学1年になるとGKに専念するようになった。足元の技術は今ひとつだった一方、ハンド・アイ・コーディネーション(hand-eye coordination=目と手の協調関係。野球でも大切とされる)やキック力に優れたからだ。高校の頃から州の代表選手に選ばれ、大学ではアメリカのプロリーグ「MLS」から視察されるほどの腕前だった。

 だが、本人はプロ野球選手に憧れた。2、3歳の頃に父親と庭で遊び始めて以来、夢中で白球を追いかけた。大学3年までサッカーの素質のほうが目立っていたが、4年生になるとついに野球の才能が花開く。エンゼルスからドラフト指名を受け、長年の夢をかなえた。

マルチスポーツで身につけた武器

 マキノンの土台になったのが、「マルチスポーツ・アスリート」として身につけた能力だった。日本では中高生の頃から一つの競技に専念する傾向が強いのに対し、アメリカでは「秋学期はサッカー、春学期は野球」というマキノンの例のように、大学まで複数競技を続けるケースも珍しくない。

 マキノンは、GKの経験が一塁手として生きていると語る。

「高校時代にサッカーのコーチに、ゴールから飛び出すタイミングとゴールにとどまることの見極め方を教わった。それからボールへの反応も高まっていったんだ。ハンド・アイ・コーディネーション、フットワーク、反応の組み合わせにより、自分の前でボールを止めるのはGKもファーストも同じだと思う。ファーストの場合、手の使い方とフットワークが良くなれば、送球が逸れてもキャッチしてアウトにできるしね」

 愚問を承知で訊いてみた。GKとファースト、どっちが難しい?

「状況次第だけど……」とマキノンは前置きをすると、両者を比べた。

「ファーストの守備には自信を持っているから不安なくプレーできる。一方、GKは本当にタフな役割だ。より多くの決断を下さなければいけないし、シュートがゴールのトップコーナーに飛んできたら対応できない。もちろん野球にもそういう打球はある。でもGKは点を与えたら責任がのしかかるので、プレッシャーが少し大きいよね」

 野球と比べてスコアが動きにくいサッカーでは、1点が重くのしかかる。そうした責任を背負うGKを経験し、マキノンはメンタルコントロール術が磨かれていった。

ファーストはチームを助けることができる

 攻撃と守備を繰り返してゲームを進める野球において、「打率3割を打てば一流」とされるバッティングはある意味、失敗の連続だ。うまく行かないことのほうが多い。

 対して、守備は努力が報われやすい。だからこそ、マキノンはいつも全力を注いでいる。

「バッティングは水物だ。うまく打てるときもあれば、そうでない場合もある。でも守備は、いつも懸命に練習してベストを尽くすことができる。バッティングで望む結果が出なかった日でも、守備で埋め合わせることは可能だ」

 子どもの頃からバッティングのほうが好きで、守備の重要性に気づいたのは大学生になってからだった。

「ファーストの守備はかなり過小評価されていると気づいたんだ。もし内野手が送球ミスをしても、ファーストが助けることができる。ライオンズには素晴らしい内野手がそろっているけど、誰だって送球ミスはあるからね。でも、直後に信じられないような好守を見せたり、スローイングや攻撃でミスを取り返したりしてくれる。もし俺が味方の送球ミスをうまく捕ってアウトにできれば、チームにとって大きな助けになる。ジャンピングキャッチや横っ飛び、守備範囲の広さでピッチャーを助けることができれば、彼らは感謝して前向きに投げていける。そう考えるようになったんだ」

 マキノンがファーストで守備をハッスルする裏には、こうした思いが込められているのだ。