ホームランキングがファーストにいたら――
アメリカでは今、複数競技を続ける選手が減ってきているという。その背景には、小さい頃から一つの競技に専念したほうが、大学進学の材料にしやすいと考える親の存在などがあるとされる。
だがマキノンは、一つに絞る気はまるでなかった。野球もサッカーも好きだったからだ。
「サッカー、野球、バスケットボールなど、競技ごとに選手たちの考え方や特徴は異なっている。マルチスポーツをすることで異なる人との接し方や、状況によっての対応を学んでいくことができた。それぞれの競技でクリアすべき課題は違うから、いろいろな乗り越え方を身につけることもできるしね。
俺の場合はサッカーをしたことで、素早い動き、ダイビングプレー、ジャンプ、キャッチなどの反応時間(=reaction time)が磨かれた。ファーストでもサッカーのシュートを止めるのと同じような動きがあるから、すごく役立っていると思う」
今季開幕戦では2番サードで先発出場したように、マキノンはホットコーナーを守る場合もある。ファーストとサード、どちらが好きなのだろうか?
「自分で選べるとしたら、サードがすごく好きというわけではない。でも、ホームランキングがファーストにいたら、他のポジションを守ることになる。俺はファーストのほうが好きだし、チームにより貢献することもできるけど、求められるポジションを守るだけだ」
ホームランキングがファーストにいたら――。
マキノンはあくまで一般論として話したのだろう。誰よりホームランを打つ巨漢打者は、一塁を守るケースが珍しくない。
西武の場合、長らくその役割を務めたのは山川穂高だった。もし、例のスキャンダルを起こしていなければ、マキノンが西武でファーストのレギュラーを務めることはなかっただろう。その場合は活躍の場が限られ、今ほどライオンズファンに愛される選手になっていなかったかもしれない(もちろん、この原稿も誕生していない)。
逆に考えると、誰しも自分の可能性を増やしておくことが大切だ。マキノンの場合、それはマルチスポーツだった。異なる人との接し方は、異国で生きているだろう。挑戦心も、彼を前に押し続ける原動力だ。GKを通じ、守備のスキルを磨いたことも大きかった。
ゴールデングラブ賞を前に……
そうして西武のファーストで奮闘してきた今季、視野に入る個人タイトルがある。一塁手のゴールデングラブ賞だ。
「ぜひ欲しいね。獲れるかわからないけど、投票権があればもちろん自分に入れる。セイバーメトリクスの守備指標(UZR=Ultimate Zone Rating。同じ守備機会を同一ポジションの平均的な選手が守った場合と比べ、どれだけ失点を減らしたかという指標)ではリーグのトップにいると思う。それを理由に投票してもらえるかはわからないけどね。でも、自分がゴールデングラブ賞を獲得できるように努力し続けたら、投票権を持つ人は俺以外に票を入れられなくなるはずだ。投票権を持つのは新聞記者なのか? よし、彼らと話しに行こう(笑)」
こう話した4日後の8月28日、マキノンは右肩痛で登録抹消となった。戦力的にはもちろん、ゴールデングラブ賞を目指す上でも痛い離脱だ。
8月26日の日本ハム戦まで全試合に出場し、その多くでファーストを守ったなか、投票権を持つ記者たちはマキノンの守備をどう評価してきたのだろうか。記者それぞれの基準があり、賞の行方はわからない。また、若手の主砲候補・渡部健人もファーストとサードを守るだけに、マキノンの復帰後、2人の起用法にも影響してくるだろう。
だが、偶然も重なった今季、マキノンは極上の守備をファーストで見せてくれた。まるで“守護神”や“忍者”のような身のこなしは、多くのファンにとって決して忘れられない瞬間になったはずだ。
残り約1カ月となった今季。ここまで攻守で西武を支えてきたマキノンの少しでも早い復帰を願うばかりだ。
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