被写体は、アラスカとアイスランドに横たわる氷河。薄く青色を帯びた巨大な氷塊の輝きに、思わず息を呑む。この氷を少し砕いて拝借し、ハイボールでも作って飲んだらさぞ美味かろう。
これほどまでに純粋な美が、地球上にはまだあるのか。そう改めて確認できる写真作品をたっぷり観られるのが、東京・表参道AKIO NAGASAWA GALLERY AOYAMAでの、石塚元太良個展「Middle of the Night」。
一大スペクタクルなのに、不思議なほど軽やかに見える氷河
石塚元太良は、旅する写真家として知られる。アジアとアフリカを縦断して撮影を重ねた「WorldWideWonderful」。また、アラスカやアイスランドの広大な地を這うパイプラインを撮った「PIPELINE ICELAND/ALASKA」といったスケールの大きい作品を、展示や写真集のかたちで続々と発表してきた。
今展では、アラスカとアイスランドの氷河をLEDライトで照らした新作シリーズを中心に据えた。極寒の地へ一人で赴き、カヌーを漕いで氷河へ接近してライトを照射し、大型フィルムカメラで撮影をする。容易に真似のできない、驚くべき行動力。
そうして生まれ出た作品は、この上なくピュアな輝きを画面いっぱいに湛える。観ていると、大自然の美の極致に触れているとの実感が湧く。
ただ同時に、石塚の写真は至極あっさりしているようにも見えるのだから不思議だ。
「どうだ、凄いことをしているだろう!」
と誇示する雰囲気が、かけらもない。
「これぞめったに見られない絶景。貴重ですよ」
とアピールする素振りも、とくにない。
目の前にきれいなものがあったから、シャッターを押してみた。これだけ美しければ、そりゃ撮るでしょう? より輝かせるために、赤色や青色のLEDライトも当ててみたけど、どうだろう。
さらりとそう語りかけてくるような、軽やかさに満ちている。それが石塚作品の美点にしてオリジナリティである。
「世界の美しさ」だけが直に伝わってくる
今展で観られる作品にかぎらず、石塚の写真にはいつもそんなところがある。
石塚はこれまで、相当ハードな撮影行を重ねてきた。1冊の写真集をつくるために、カメラを手に世界を2周して回ったことだってある。
移動が常態の石塚にとって、遠いどこかへたどり着くこと自体は、特別で貴重な出来事というわけじゃない。
「とうとうここまで来た、せっかくだからこの光景をしっかり残さねば」
などという思い入れとは無縁。だから石塚の撮る写真は、旅にまとわりつく湿っぽさから自由でいられる。
自分の情念は脇に置いて、外界と直に対峙し、そこに現れる美しいイメージを逃さず捉えるのが、石塚元太良の写真。だからこそ作品と向き合う私たちにも、世界は美しいという感触だけが、ダイレクトに伝わってくるのだ。