50歳を過ぎてから起きるタイプのてんかん
すでに触れた通り、てんかんは子供の頃に発症することの多い病気だが、成人後、特に50歳を過ぎてから起きるタイプのてんかんがある。今回のテーマ「高齢者てんかん」だ。
「一般的なてんかんが突然昏倒したり、全身がけいれんするといった“派手な症状”を特徴とするのに対して、高齢者てんかんの症状は周囲が気付きにくいものが多い。しかも、認知症の症状と似ているので、“年齢的に認知症だろう”と思われて、てんかんの存在に気付かれないケースが少なくない」(久保田医師)
高齢者てんかんに見られる症状には次のようなものがある。
■普段は普通に過ごしているのに、突然動作が止まり、周囲の呼びかけにも反応しなくなる。数秒から数分で意識は戻るが、意識を失っていた間の記憶はない
■「くちゃくちゃ」「もぐもぐ」といった“牛の反芻”に似た口の動き。あるいは無意味に体をゆすったり、腕を動かすことがある
■問いかけに対して「あー」「うー」といった返答しかしなくなり、会話が成立しなくなる。あるいは、同じ内容の話を繰り返すようになる
■急に怒りっぽくなり、その必要がないのに声を荒げる
■体調の良し悪しの差が大きい
■目の焦点が合っていない
■睡眠中に「けいれん」を起こすことがある
こうした症状を見ると、たしかに認知症と考えてしまいがちだが、重要なのは、高齢者てんかんの患者は、普段は意識も明瞭で動作もスムーズで、きちんとコミュニケーションを取ることができる――という点。上記の症状はいずれも「発作時」にのみ現れるものだ。
認知症と決めつける前に、医師に相談を
現在のところ、認知症には薬を使って病気の進行を遅らせることを目指す程度で、根本的な治療法はない。もちろん、高齢者てんかんの患者に認知症の治療薬を使っても効果はない。
しかし、高齢者てんかんには治療薬がある。
「レベチラセタムなど、新しい抗てんかん薬の高い有効性が認められていて、これらの薬を使うことで発作の発現を止めることは可能です」(久保田医師)
高齢者てんかんの発症率は「100人あたり1~2人」というから、決して珍しい病気ではない。しかし、この病気の診断には高い専門性が求められ、脳神経外科や神経内科の医師なら誰でも見分けられるものでもないという。
高齢の家族に上記の症状が見られるようなら、認知症と決めつける前に、「日本てんかん学会専門医」など、てんかん治療に精通した医師に相談してみることを強くお勧めする。
てんかんを患ってしまったことには罪はない。しかし、それを無視して車を運転し、事故を起こした時の罪は大きい。事故の被害者だけでなく、同じ病を持つ患者をも苦しめることになる――ということを、患者も社会も、共通認識として持っておくべきだろう。