OSOによる被害を受けた酪農家の人たちのことを思えば、誰が獲ろうと喜ばしいことには違いない。

 一方で、約1年半に渡ってOSOを追いかけてきた藤本氏にすれば、釈然としないものも残った。駆除したハンターによるとOSOは逃げる素振りさえみせず、一昼夜に渡り動かなかったという。

なぜか腫れていた掌

 あれほど人間を警戒していたのに、なぜ簡単に撃たれてしまったのか?

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 その謎を解くカギを、駆除直後のOSOの写真の中に見つけたのが冒頭の場面である。藤本氏が説明する。

「左の掌が指関節の節目もわからないほど腫れていたんです。右の掌と比べるとその差は一目瞭然でした」

 さらに藤本氏が独自に入手した別角度の写真では、紐状のものが食い込んだような跡も確認できたという。

「恐らく“括り罠”のワイヤーで鬱血した跡です」(藤本氏)

 “括り罠”とはワイヤーの「輪」の中に獲物が足を踏み入れると、バネが作動し、「輪」が一気に締まって獲物を捕らえる罠である。通常、ヒグマに対して使用することは禁じられている。

「OSOは駆除される前にどこかで“括り罠”にかかり、身動きが取れないほど衰弱した可能性が高い」と藤本氏は語る。

駆除直後の掌(写真提供:南知床・ヒグマ情報センター)

OSOが罠にかかった場所

 退院後、藤本氏は駆除現場の周辺を探索し、OSOが罠にかかったと思しき場所を発見している。そこはエゾシカの不法投棄場所のすぐ近くでもあった。

「OSOは以前から通っていた不法投棄場所に向かう途中で、罠にかかったんでしょう。罠を設置した人間がエゾシカを狙ったのか、違法にクマを狙ったのかはわかりません」(同前)

 罠を何とか外したと思われるOSOは満身創痍で山を越えたところで動けなくなった。そして、その場所でハンターに撃たれた。

“怪物”を作り出したのは人間

 藤本氏は「もともとはOSOだって山菜や果実類を食べる普通のヒグマだったはずです」と語気を強める。

「ところが人間が不法投棄したエゾシカを食べて肉の味を覚えた。さらにどこかで牛の肉を口にして、いよいよ肉食に執着するようになり、そのせいで最後は命を落としてしまった」

 ヒグマを取り巻く環境が今のままであれば、いずれまた“第二のOSO”が現れることは確実だという。

「OSO18という“怪物”を作り出したのは、最初から最後まで人間だったと私は思っています」

 藤本氏の言葉は重い。